千年の寺「華蔵寺」に咲く金木犀。まちの記憶をつなぐ秋の香り【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

金木犀

更新日: 2026年01月22日

10月中旬、群馬県伊勢崎市の華蔵寺公園から甘い香りが漂い始めます。香りの主とされているのは、華蔵寺にある国指定天然記念物の金木犀。わずか数日間の満開を求めて、地域の人々が静かに訪れます。千年の歴史を持つ華蔵寺で、住職(49)にお話を伺いました。

今年の金木犀の開花は「少し不思議」。咲き方の違いに驚いて

華蔵寺

<華蔵寺と金木犀>

 

全国でわずか6例 しかない、国指定天然記念物の金木犀。そのうちの1本が、華蔵寺の本堂と寺務所の間、柵に囲まれて立っています。同じ群馬県内には、もう1本。現邑楽町の永明寺にあり、華蔵寺と同じ昭和12年6月15日に指定されました。

 

<画像提供:華蔵寺様より 数日だけ満開だった金木犀>

 

「今年(2025年時)の金木犀の開花は、少し不思議だったんです」

住職が迎えてくれたとき、花は咲いていたものの、すでに見頃は過ぎていました。金木犀を思い出すように、住職が続けます。

「最初は金木犀の片側だけが花をつけて、何日か暑い日が続いた後に、今度は反対側が咲きました。昨年は一斉に花が開いてきれいでしたが『今年は全部一気に咲かなかったね』と、見に来た方もおっしゃっていましたね」

2025年、伊勢崎市は日本国内歴代最高の41.8℃を記録しました。もしかすると、暑さが関係するのかもしれない——住職は思いを馳せます。

3、4日だけの刹那な見頃。甘く広がる香りに秋を感じる

金木犀

<画像提供:華蔵寺様より 甘い香りが漂う金木犀の花>

 

「朝、起きて窓を開けると、ぶわーって香りが入ってくるんですよ。あ、秋が来たなって」

住職によると、金木犀の見頃は10月中旬頃とのこと。伝えられてきた石碑や文献によれば、昭和12年当時はお彼岸の頃が見頃でした。しかし近年は気象が変わり、開花も遅くなってきたのだと言います。

 

<華蔵寺公園への道。金木犀が落ちて絨毯のよう>

 

「金木犀の花は、本当に儚くて。花が小さいため、ちょっと風が吹いたり雨が降ったりするだけで、すぐパラパラと落ちてしまうんです。365日のうち、本当に素晴らしいと思えるのは3〜4日だけ」

毎日住んでいるからこそわかる「一番いい日」ですが、狙って見に来るのはなかなか難しいのだとか。

「でも、時期になると金木犀を知っている方はたくさんいらっしゃいます。近所のおじいちゃん、おばあちゃんが『金木犀の香りがしたから、早く行かないと散っちゃうと思って来たのよ』って来られました。風が吹くと、すぐ散ってしまうのをご存じだから」

国指定天然記念物・初代金木犀に残る記録と記憶

写真

<国指定天然記念物に指定された昭和12年の写真>

 

華蔵寺の初代金木犀が国指定天然記念物に指定されたのは、昭和12年6月15日。当時で樹齢3、4百年と言われており、幹囲2.8メートル、樹高10.6メートル、枝張り東西約20メートルの大木でした。

見頃になると、4キロメートル四方に甘い香りが広がっていたと伝えられています。ちなみに4キロメートル四方というと、南は伊勢崎神社を越え、北は赤堀の50号付近。どれほど遠くまで香りが届いていたかがわかります。

 

<文部省『天然記念物調査報告 植物之部第十七輯』より>

 

「金木犀について書かれた本は残っていますが、当時を知る方は少なくて...」

お寺には、昭和12年に発行された「天然記念物調査書」が今も保管されています。そこには初代金木犀の写真が残されていました。台風で倒れた金木犀の写真も、家族の思い出とともに大切に保存されています。

台風を越えて。2代目の金木犀が受け継いだもの

写真

<航空写真から。華蔵寺公園ができる前の姿>

 

初代金木犀は、昭和41年と昭和57年の台風により、ほぼ根元から倒れてしまいました。現存する金木犀は、昭和63年に群馬県林業試験場が育てた苗木を譲り受け、2代目として移植されたものです。

 

<台風で枝が折れた当時の金木犀>

 

「風や台風で枝が折れても、自分で切ってはいけないんです。指定の樹木医さんを呼んで、剪定してもらう。昨年まで枝や葉が広がりうっそうとしていましたが、今年はお任せで整えていただいたので、すっきりしました」

専門家の判断に委ねながら、2代目の金木犀は元気に葉を広げています。

「半分うちので、半分うちのじゃない」地域とともに息づく金木犀

華蔵寺

<静寂に包まれた華蔵寺>

 

「金木犀はうちの敷地の中にありますけど、市や県、国などいろいろな方の力を借りています。半分うちので、半分うちのじゃない、みたいに感じますね」

樹木医だけでなく、月に1度、群馬県の文化財保護課も金木犀のパトロールに来ます。

「手を加えられなくても、見守ることはできます。それはうちだけでなく、地域の方や近所の方に支えられて、生きてきた歴史があるからだと思いますね」

 

<画像提供:華蔵寺様より 2025年12月に新設された説明看板。12月でも緑の葉が印象的>

 

冬になっても金木犀は緑のまま。歴史あるお寺とともに生きてきた金木犀は、変わりゆく伊勢崎の街並みの中でも、変わらず立ち続けています。

 

「これからもね、近所の方や訪れてくれる方たちに楽しんでもらえるように、ずっと守っていければいいなと思います」

繰り返し「守る」と口にした住職。金木犀の太い幹からは、若芽が何本も伸びていました。

 

<参考文献>

文部省 編(昭和12).『天然紀念物調査報告 植物之部 第17輯』文部省

高見勘次郎 著, 伊勢崎史談会 編(1968).『伊勢崎の植物 (郷土シリーズ ; 4)』伊勢崎郷土文化協会

 

インフォメーション

華蔵寺

住所:群馬県伊勢崎市華蔵寺町6-1
電話:0270-26-2370

HP:https://kezouji.jimdofree.com/

SNS:https://www.instagram.com/kezoji_gunma/

 

杜澤こさゆ

杜澤こさゆ

群馬県に住んで19年。うどんやお蕎麦などおいしい地元の食材を食べ、温泉に入ってゆったりするのが最高の瞬間です。趣味はハイキングや登山。山頂からの景色に癒されています。