音が溶け込む森へ。秋の赤城自然園で心を整える“森のリトリート” 【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

赤城自然園(紅葉)

更新日: 2025年12月11日

黄色や赤に色づいてきた木々の中、葉が落ちる音や川のせせらぎに混じり、オーボエの音色が森に響きます。標高約700m、赤城山の麓にある赤城自然園で行われる「森 de ミュージック」。音に包まれながら心と体が整っていく、森のリトリートを体験してきました。

知識ではなく感覚で。心と体を整える、癒しの森「赤城自然園」へ

赤城自然園(入口)

<赤城自然園の入り口>

 

群馬県渋川市にある赤城自然園は、赤城山西麓・標高600〜700mに位置する、自然との共生を目指して整備された森です。

60ヘクタールもの広大な敷地には、それぞれ特徴の異なる3つのエリアがあります。シャクナゲや季節の花々が咲き誇る、イングリッシュガーデンを模した「セゾンガーデン」。アカマツ、カエデ、ブナの巨木が立ち並び、森の呼吸を感じられる「四季の森」。池や木道が整備され、昆虫の生態系が植物とともに守られている「自然生態園」です。

 

<赤城自然園の遊歩道から。紅葉が始まる森の中を進む>

 

「花の名前を覚えるよりも、目の前の景色を楽しんで季節を感じてほしい」

ガイドの岩田さん(60)の言葉が象徴するように、この森で大切にされているのは感覚で味わうこと。

ただ歩くだけで呼吸が深くなり、広場でゆっくり過ごすだけで全身が癒されていきます。

静寂の森が音を受け入れる日。自然と共鳴する「森 de ミュージック」

静寂の森

<画像提供:赤城自然園様より>

 

「森 de ミュージック」が始まったのは2022年のこと。赤城自然園では開園当初から鳥の声や風に揺れる葉の音など自然の音を大切にし、また野生動物を驚かせないように音の出るものの使用を禁止しています。

「でも時代の変化とともに、青空の下、芝生で音楽を聴いたら素敵なのではないかと思うようになりました」

ただし電気的な音は避けたかったと話す、ガイドの岩田さん。自然と調和する音を探して、最初はサックスからコンサートが始まりました。

 

<通常立ち入りできないエリアもある>

 

「オーボエを演奏いただく佐藤美香さんは今回で3回目の出演ですが、ようやく晴れてくれました」

過去2回は雨のため屋内開催でしたが、この日は念願の秋晴れ。会場の「しばふ広場」に入った瞬間、落ち葉の甘い香りが鼻の奥まで届きます。穏やかな風が吹くと、はらはらと落ち葉が舞い、一枚の絵画のような光景が広がっていました。

目を閉じて聴く、森と音楽に没入する体験。オーボエの音が響く広場

森 de ミュージック

<しばふ広場で行われた「森 de ミュージック」>

 

「森 de ミュージック」で演奏するのは、赤城自然園のスタッフでもあるオーボエ奏者・佐藤美香さん。

「音楽とオーボエに救われた経験から、音楽の力で人を癒したい」

佐藤さんは、東日本大地震をきっかけに会社員からオーボエ奏者に転身しました。「森 de ミュージック」は、曲間のMCを挟まない約20分間のノンストップ・ライブです。

 

<オーボエで演奏する佐藤美香さん>

 

「目を閉じて、自然の風や葉と音を一緒に感じてください」

そう語り、自然と対話するように音を奏でる佐藤さんのオーボエが、しばふ広場に響き渡ります。この日は午前と午後に演奏され、1回のプログラムで佐藤さんセレクトの4曲が流れました。芝生に座る人々に囲まれて響くオーボエの音は、大気に拡散していくのではなく、まるで空間を包み込むような心地よさでした。

風に揺れる枝葉、鳥の声と音楽が混ざり、ただ音を感じる贅沢な時間。音楽が終わっても、拍手をするのがもったいないような、深い余韻が残ります。

心と体を取り戻すために自然に触れてほしい。岩田さんが語る自然との共生

ヤマラッキョウとリンドウ

<ヤマラッキョウとリンドウが咲く秋の赤城自然園>

 

「1時間では足りない。何度も足を運んで、なるべくゆっくり時間をかけて森の変化を感じてほしいですね」

木々を見つめながら歩くガイドの岩田さんは、かつて会社員として忙しい日々を送っていました。ガイドになった当初は花の名前や知識を伝えることに一生懸命だったそうですが、森で過ごす10年の月日が視点を変えたのです。

「今では花だけでなく、風や落ち葉など移ろう景色も楽しめるようになりました。数日経つだけで、まるで景色が変わるんです。疲れたら『そろそろ行ってみようか』と思い出してほしい」

岩田さんは森の案内人として自然が人を整える瞬間を見届けています。

 

<自然生態園のミズスマシの池。歩いていくと、ここだけの景色が見られる>

 

人の時間軸ではなく森の循環を尊重する赤城自然園では、人の通り道にある危険な木以外、倒木もそのまま残すエリアを設けています。

「朽ちた木には虫が集まり、キツツキも巣を作る。なるべくあるがままの自然の姿や空気感を尊重しています」

赤城山よりも昆虫が多く、自然豊かな赤城自然園は、野鳥も多く生息し、ハンカチノキやサンショウバラなど貴重な植物の宝庫です。

紅葉シーズン限定の特別な景色。秋の赤城自然園で出会う見どころ

赤城自然園(紅葉)

<画像提供:赤城自然園様より>

 

赤城自然園のイロハモミジの紅葉がピークを迎えるのは、例年11月中旬頃。紅葉シーズン限定で、通常は立ち入りできないエリアが開放され、奥深い森の景色を楽しめます。

「午後も素敵ですよ。夕方、日が沈むと道が赤く染まるんです。あとは、四季の森のアカマツ広場にある大木のカエデを目指される方も多いです」

 

<紅葉が広がるブナの木>

 

ガイドの岩田さんが特におすすめするのはブナの紅葉。

「緑、黄、赤のグラデーションが青空に映えるブナは最高です。見るだけで気持ちが温かくなりますね」

赤城自然園をすべて歩くと約2時間。リンドウなど秋の花々もあちこちに咲き、ベンチで休憩しながらゆっくり森の時間を堪能できます。

「以前来園された80代くらいの方が『年を重ねると春の芽吹きに感動する』と仰っていたのが忘れられません。ブナの芽吹きは白い木肌に黄緑色と、萌えるように美しいんです。

 

<画像提供:赤城自然園様より>

 

音楽と自然、ただそこに居るだけでいい赤城自然園。忙しい日々の中で頭を空っぽにして音楽を聴けるのは、このうえない贅沢なひとときでした。心が疲れたと感じたときこそ、森へ。音が聴こえる場所で、自分を取り戻す時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

インフォメーション

赤城自然園

住所:群馬県渋川市赤城町南赤城山892
電話:0279-56-5211
営業時間:9:00~16:30(入園15:30まで)
開演スケジュール:4〜5月:無休
        6〜11月:火曜日を除く毎日(火曜祝日の場合は開園)
       12〜3月:土・日・月曜日(年末年始除く)
料金:高校生以上:1,000円
   中学生以下:無料
   駐車場:無料(400台)

HP:https://akagishizenen.jp/

X:https://x.com/akagishizenen

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YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCDprYutodxIlwm5bTlGoduA

 

杜澤こさゆ

杜澤こさゆ

群馬県に住んで19年。うどんやお蕎麦などおいしい地元の食材を食べ、温泉に入ってゆったりするのが最高の瞬間です。趣味はハイキングや登山。山頂からの景色に癒されています。