一度は味わいたい希少なグルメ 群馬の最高級ニジマス「ギンヒカリ」

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更新日: 2024年04月10日

 

みなさん、「ギンヒカリ」という魚をご存知ですか?

群馬県では利根川をはじめとした豊富な水資源を活かし、イワナ、ヤマメ、ニジマスなどの養殖が盛んに行われてきました。そんな中で県が10年以上かけて開発した最高級ニジマスが「ギンヒカリ」です。ニジマスといえば塩焼きが定番ですが、ギンヒカリは1キロを超える大型で生食に適しており、2002(平成14)年のデビュー以来、県内の温泉旅館や割烹料理店で刺身を中心に提供され好評を得てきました。

 

■3年で成熟するニジマス

 

研究開発が行われたのは、群馬県水産試験場「川場養魚センター」。ここでは、養殖魚の品種改良や養殖技術の研究を行っているほか、県内の養魚場などに卵や稚魚を供給する役割を担っています。

普通のニジマスは孵化してから2年で成熟します。秋の採卵シーズンには毎週飼育池に入り、1匹ずつお腹をさわって、卵が採れる状態かどうか選別を行いますが、その中で2年たっても成熟しないニジマスが見つかりました。銀色の光沢を帯びていることから『ギン』の愛称がついたこのニジマスは、肉質がきめ細かくその美味しさは養殖業者の中で評判となりました。

「『ギン』を固定化(*注1)できれば、群馬が誇れるブランド魚になるのではないだろうか」

1987(昭和62)年、挑戦が始まりました。

*注1:特徴が次世代以降に安定的に引き継がれること

 

武尊山系の湧水を利用した「川場養魚センター」

 

■10年かけた選抜育種で固定化に成功

 

全国各地で100種類以上の「ご当地サーモン」が開発されていますが、その多くは卵に温度変化や圧力を与えたり、違う種類の魚と交配させたりといったバイオテクノロジー(染色体操作)によって作り出されたものです。ギンヒカリは自然に発生した個体の選抜と交配を繰り返す、選抜育種と呼ばれる手法によって開発されました。当時、技師として固定化試験に携わった新井センター長は「時間はかかりますが、自然に近い方法で美味しいニジマスをつくることにこだわりました」と振り返ります。

3年で成熟したニジマスを選んで卵と精子を人工授精させ、生まれたニジマスの中から3年で成熟したものを選抜し交配する。その作業を繰り返し、10年あまりをかけて固定化に成功。2002(平成14)年に「ギンヒカリ」として商標登録されました。

 

 

稚魚に餌をやる新井センター長

 

■大きくて味も良し!ニジマスの新境地を開拓

 

一般にニジマスは成熟すると卵や精子に栄養が吸収されて肉質が落ちてしまいます。ギンヒカリはニジマスと比べて成長スピードは変わりませんが、成熟期が伸びることで「大型かつ高品質なニジマス」として出荷することを可能にしたのです。

また東京大学との共同調査(*注2)によって、卵膜に特殊な糖タンパク質が発見され、群馬県にしか存在しない系統であることが分かりました。群馬ならではのブランド魚としての価値を守るため、ギンヒカリとして販売するには、次の条件をクリアしていることが必要です。

①群馬県水産試験場の厳選された卵や稚魚を用いていること

②鮮やかな赤い身にするため、天然色素「アスタキサンチン」が配合された餌を3ヶ月以上与えていること

③体重が1キロ以上であること

 

*注2:大久保宏一(1991) 性成熟遅延系 (3年成熟)雌ニジマスの卵表層胞糖タンパク質による同定 日本水産学会誌

 

 

【食用ニジマスの利用イメージ】

 

■美味しい魚を消費者に届けたい

 

現在県内では12軒の養殖業者がギンヒカリの生産を行なっています。訪ねたのは吾妻郡東吾妻町で三代続く創業60年の「あづま養魚場」。日本名水100選に認定されている箱島湧水のすぐそばにあり、清らかな湧き水を使って川魚の養殖を行っています。

二代目の池田克彦さんはギンヒカリ開発当時、養鱒漁業協同組合の組合長として養殖試験に携わりました。ご当地サーモンの中には、成長が早く病気に強いなど生産者の飼いやすさを主眼において開発されたものが少なくありませんが、「ギンヒカリは美味しい魚を消費者に食べてもらいたいという思いから開発がスタートしました。その分、生産者泣かせ(笑)。デリケートな魚なので、飼うのに手間がかかります」と克彦さん。「早く大きくしようと餌を与えすぎると2年で成熟してしまい、売り物にならないことも。逆に餌を抑えてゆっくり育てると、出荷できる期間が短くなってしまう。卵の孵化から成熟まで管理が難しく技術が必要です」と三代目・池田駿介さんも口を揃えます。

生産者の苦労と努力が、最高級と言われるギンヒカリの美味しさを支えているのです。

 

「あづま養魚場」三代目・池田駿介さん

 

■歯ごたえがよく、すっきりとした味わい

 

ギンヒカリを食べられる場所はごくわずかですが、「あづま養魚場」では食事処でギンヒカリの刺身や漬け丼などを提供しています。丸々一匹を使ったコースや、低温でスモークした冷燻も人気です。

「通常のニジマスよりも脂が少ないので、生や半生で食べるのが美味しいですね。魚臭さがなくさっぱりしているので、魚が苦手な人でも美味しく食べられます」と駿介さん。鮮やかなサーモンピンクの身を口に運ぶと、シルクのような滑らかな舌触りと心地よい歯ごたえが楽しめます。他のサーモン類に比べ高タンパクで脂質の割合が少なく、中性脂肪を減らす効果が期待できるEPAやDHAが豊富に含まれていることから、健康食材としても注目を集めています。

 

 

あっさりとしていて奥深い味わいが魅力

 

■ブランド力強化に向けた挑戦

 

 ギンヒカリの年間生産量は、ピーク時には30トンを超えましたが、コロナ禍で旅館・飲食店の需要が減り、2022年には24トンに落ち込みました。需要が回復した今は供給量が追いつかず、品薄状態が続いています。

群馬県民でもめったに食べられない幻の魚となりつつありますが、県では2029年までに目標生産量40トンを掲げ、増産に向けて施策を練っています。「提供できる卵や稚魚の数をできるだけ増やしていくと共に、生産者さんと活発に意見交換をすることにより養殖技術の向上を目指していきたい」と新井センター長は話します。

現在はギンヒカリよりさらに成熟が遅い4年成熟系ニジマスの固定化試験も進められているそう。4年に1度しか採卵できないため固定化には時間がかかりますが、成功すれば早期成熟率が下がり、出荷可能期間が延びるなどメリットが期待されます。

ギンヒカリの美味しさをより多くの人に届けるために、関係者の挑戦は続きます。

 

 

1匹から3000〜5000粒の卵が採れる