冬だけの雪景ハイキング!チャツボミゴケ公園でスノーシュー体験と産業遺産をめぐる旅

チャツボミゴケ公園(中之条町)

更新日: 2024年03月07日

群馬県白根山のお膝元、奥草津の深い山奥に深緑ビロードのモフモフ苔が広がる「チャツボミゴケ公園」があるのをご存じですか?

草津温泉と同様の強酸性の温泉水に生息するチャツボミゴケは、その希少性から国の天然記念物にも指定されています。

今回は、閉ざされた雪の世界で味わえる冬ならではのアクティビティ「チャツボミゴケ公園スノーシューハイキング」体験とチャツボミゴケ公園にゆかりのある産業遺産「旧太子駅」を訪ねる旅をご紹介します。

東アジア最大級!中之条町の「チャツボミゴケ公園」とは

チャツボミゴケ公園(つつじ)

草津温泉からほど近い中之条町六合(くに)地区の深い山間に位置するのが「チャツボミゴケ公園」です。

チャツボミゴケとはウロコゴケ目ツボミゴケ科に属する苔の一種で、世界中に存在する18,000種もの苔のうち、もっとも耐酸性の強い苔と言われています。草津温泉に匹敵するPH2.8の強酸性の温泉水に生息するチャツボミゴケ公園の群生地は東アジア最大級といわれ、その希少性から2015(平成27)年にラムサール条約に、2017(平成29)年には国の天然記念物に指定されました。

PH2.8といえば、数日水に漬けておくと五寸釘がボロボロになるレベル。そんな過酷な生息環境とは思えないほどに、チャツボミゴケの色は青々としてつやつやモフモフの天然ビロードのようです。

 

 

チャツボミゴケ公園の前身は、かつて国内第2位の生産量を誇った「群馬鉄山」と呼ばれる露天掘り鉱山でした。その最盛期には2,000人を超える鉱夫らを抱えた一大鉱山集落だったそう。園内の岩肌からのぞく赤ベンガラの褐鉄鉱(かってっこう)が当時の名残を偲ばせます。

鉱山として栄えた当時、一面を掘り尽くされ、まるで焼け野原のように荒涼とした大地だったチャツボミゴケ公園。1966(昭和41)年に閉山を迎えると、鉱山を所有した日本鋼管工業(現JFEエンジニアリング)が保養所として緑を整備、2014(平成24)年に中之条町へ無償譲渡されて以降は保護活動が活発化し、現在の姿まで回復しました。

 

今あるチャツボミゴケ公園は、地元の方々の並々ならぬ保護活動あっての賜物なのですね。

冬だけの雪景体験!チャツボミゴケ公園スノーシューハイキングをリポート

チャツボミゴケ公園(スノーシューハイキング)

チャツボミゴケ公園スノーシューハイキングとは

分厚い雪に覆われ、通常12月から4月までは冬季閉鎖されるチャツボミゴケ公園。一般の立ち入りは禁止されていますが、中之条町が主催する「チャツボミゴケ公園スノーシューハイキング」のツアー参加者だけは、特別に入山が許可されています。

本ツアーの参加者は1日最大4名まで、この地を知り尽くした案内人とともに、雪に覆われたバックカントリーの道なき道をスノーシューで歩きながら、冬の大自然にふれ、学び、遊び尽くすスペシャルな企画です。まさに絶好の非日常体験が味わえます。

 

 

コースは、スタート地点の公園管理事務所から標高約1,200mのチャツボミゴケ公園まで標高差約300m、片道およそ2kmの距離となります。コース上には急な上り下りも時折ありますが、比較的なだらかで体力に自信のない方も安心です。

装備は、まずは雪上歩行の必須アイテム「スノーシュー」。古くから日本に伝わる「ワカン(かんじき)」に対して、初心者でも取り扱いが楽で浮力が高いスノーシューを使用します。

次にストック(トレッキングポール)。ストックを使うことでバランスを保ちやすくなり、足の負荷も軽減、転んだときには起き上がるツールとしてもお役立ちです。

スノーシューとストックはツアーで用意してくれます。それ以外で自分で用意すべきは防水のきいた登山靴やスノーブーツ、足元の雪の侵入を防ぐゲイターやスパッツ、防水手袋など。防寒着は必要ですが、歩いているうちにすぐに暑くなるため、重ね着できるものが便利です。

学んで遊んで癒されて、冬の大自然を満喫!

チャツボミゴケ公園(自然学習)

今回のツアーを案内してくれるのは、元小学校の先生で野反湖うらやまガイドの木村さん。野反湖(のぞりこ)周辺やチャツボミゴケ公園、芳ケ平湿原などの自然を知り尽くしたガイド歴10年以上の大ベテランです。

草木が枯れたハゲ山に見えても、そこは冬ならではの学びが詰まった自然の教科書。空を見上げれば枯れ枝に「ヤドリギ」、見た目ミズナラそっくりの「ハリキリ」の大木、メモ代わりにもなるペラペラの樹皮をまき散らしたダケカンバなど……。

葉が生い茂る季節とは異なり、葉が枯れ落ちて見通しが良くなった冬山では、普段見えない角度から新たな景色が広がるのも一興です。

 

 

雪の上に残された野生動物の足跡。

チャツボミゴケ公園周辺ではキツネ、うさぎ、リス、ニホンカモシカ、鹿、イノシシなどさまざまな野生動物が生息しています。足跡ひとつで、どんな野生動物が、いつ頃、どの方角へ向かったのかなど見分けることができます。

そして、空を見上げれば、木の上にはヤドリギに似た「熊棚」(熊が木の上で木の実を食べるために枝を折ってたぐり寄せ、鳥の巣のようになった痕)を見つけることも。きっとチャツボミゴケ公園のクマたちは木の実をたらふく食べて、ぐっすり冬眠していることでしょう。

 

 

雪山の醍醐味といえば、やはり雪遊び。

まっさらな雪の上に大の字で寝転がってしばし森の音に耳を傾けたり、ふかふかの新雪にからだ全体でダイブしたり、雪ぞりで林の中を大胆に駆けおりたり、大の大人も童心に返って全身で楽しめるなかなか贅沢な体験でした。

 

 

ひとしきりからだを動かした後、特に山の上でいただくカップラーメンはとにかく格別。これは体験した人にしか分からない味わいですよね。

カップラーメンはツアーで用意してくれますが、もの足りないと感じる方はおにぎりやパンなど携帯食の持参をおすすめします。

雪とチャツボミゴケの夢の共演!冬だけの絶景をご堪能あれ

チャツボミゴケ公園(チャツボミゴケ)

雪道を歩くこと約2時間、いよいよチャツボミゴケ公園に到着です。

辺り一面深い雪に包まれながらも、チャツボミゴケが生息する付近だけは、温泉水の影響で凍結も積雪もせず、変わらぬ姿でたたずんでいます。

通常はレンゲツツジなどの草木に囲まれ見えにくい沢ですが、冬は逆に見通しが良くなって違った景色が楽しめます。また、気温がグッと下がると、水蒸気に包まれた幻想的な光景が広がるそうですよ。

 

 

いよいよハイライトの「穴地獄」に到着。ここは旧群馬鉄山における最奥部にあたり、鉱泉の湧出口のあるチャツボミゴケ最大の群生地です。ビロードのような深緑のチャツボミゴケと純白の雪とのコラボはまさにツアー参加者だけに与えられるご褒美的な冬の絶景!

ちなみに「穴地獄」とは、かつてこの地に鉄鉱石でできた深い穴があり、その穴に動物が落ちると命を落としたことから付けられた名前だそう。しかし、木村さんによると、本来の穴地獄の位置はもう少し手前にあったそうです。

 

 

それにしても、なぜ珍しいチャツボミゴケがかつて鉄鉱石が豊富に採れた鉱山跡に群生しているのか、ふしぎに思いませんか?

それは、湧出する温泉水に鉄分が豊富に含まれていたことも影響しているとされていますが、その主な要因は、苔そのものが鉱物(無機化合物)を作り出す「バイオミネラリゼーション」の作用によるものと考えられています。

要するに、気の遠くなるような年月をかけて、チャツボミゴケ自身が鉄鉱石を生み出し、鉱山に成長したんですね。

チャツボミゴケの黒ずんでいる部分が、ひょっとして鉱物に生まれ変わっている瞬間かと思うと、なんだかロマンを感じます。

 

 

チャツボミゴケ公園の周遊遊歩道は分厚い雪に覆われ、慎重に歩を進めていきます。

雪の断面を見ると3層構造になっていますが、これは今年の雪が3回降ったことを示すそうです。

チャツボミゴケ公園を一周した後は、公園の西側奥にあるモリアオガエルとクロサンショウウオの繁殖地とされる凍結した池を経由し、さらにチャツボミゴケ公園に向かう途中に見かけた白絹の滝の上を通過しながらスタート地点へ戻ります。

今回は、およそ4時間半と通常よりゆっくり目の行程となりましたが、普段では味わえない非日常の体験を満喫し、心身ともに癒されました。

 

チャツボミゴケ公園ゆかりの産業遺産「旧太子駅」

チャツボミゴケ公園(旧太子駅)

「旧太子駅」とは

チャツボミゴケ公園から約16km南に下った国道292号沿いにある「旧太子(おおし)駅」。

かつて旧群馬鉄山(現チャツボミゴケ公園)で採掘された鉄鉱石を搬出するための鉄道「太子線」の始発駅として、戦時中の1945(昭和20)年に開業、群馬鉄山の閉山とともに1971(昭和46)年に廃線を迎えました。

日本の戦後復興を支えた貴重な鉄鉱山の歴史遺構として、中之条町では当時のホッパー棟やホーム、駅舎を復元、その歴史的価値と重要性が認められ、2021(令和3)年3月、国の登録有形文化財に指定されました。

復元されたホッパーは今注目の“映え”スポット

チャツボミゴケ公園(ホッパー)

レールが敷かれたコンクリート製の柱が立ち並ぶ建物が「ホッパー棟」。

「ホッパー」とは、建物上部から砂利や鉄鉱石を投入し、最下層の1階に貨車を置いてそれらを積み込んだ施設のこと。当時は3階建ての大きな建物だったそうです。

現在は1階基部の柱のみが復元され、奥側のきれいな柱は土に埋もれていたおかげで当時の姿が生かされたホッパー棟、手前側は風雨にさらされ老朽化が激しいホッパー棟となっています。

このホッパー棟の廃墟感が今、“映え”るフォトスポットとして注目を集めています。

 

 

復元した駅舎資料館にはレアアイテムも

復元された駅舎には、旧群馬鉄山に関わる当時の貴重な写真や資料が展示されています。

チャツボミゴケ公園が、今では考えられないほどかつては荒涼とした大地だったことを示す貴重な写真もあるため、ぜひチェックしてみてください。

また、ここでしか買えない当時の普通運賃表のクリアファイルやオリジナルTシャツ、ステッカーなどレアなアイテムも販売中。鉄道好きなら見逃せませんね。

 

 

入口の目印は貨物車両「ワラ1形」

旧太子駅の入口は、このJR四国から寄贈された「ワラ1形」の貨物車両が目印。

かつて17,000両が製造された「ワラ1形」を代表する製造番号「1」の貴重な「トップナンバー車」だそうです。

復元されたホームには大井川鉄道含め全国から寄贈された貨物車両が屋外展示されています。

鉄道好きや歴史好き、そして“映える”写真を撮りたい方にはたまらないスポット。ぜひチャツボミゴケ公園と合わせて立ち寄ってみてくださいね。

インフォメーション

チャツボミゴケ公園

〒377-1701 群馬県吾妻郡中之条町入山 13-3

TEL:0279-95-5111(チャツボミゴケ公園事務所)

入場料:300円(保全協力費として)

開園期間:4月中旬~11月末(12月~4月中旬までは冬季閉鎖)

スノーシューハイキングツアー開催期間:1月~3月(要事前申込)

アクセス:関越自動車道「渋川伊香保IC」より草津方面へ県道55号を経由して、約2時間、または上信越自動車道「碓氷軽井沢IC」より浅間・白根・志賀さわやか街道を経由して約2時間

http://chatsubomigoke.web.fc2.com/chatsubomigoke.html

https://tabinakanojo.com/

 

旧太子駅

〒377-1703 群馬県吾妻郡中之条町太子251番地4

TEL:0279-95-3111(中之条町役場 六合振興課 観光振興係)

開館時間:10:00~16:00

入館料:200円(町民および中学生以下無料)

定休日:毎週火曜日~金曜日(12月1日~翌年3月31日、祝日を除く)、年末年始(12月29日~翌年1月3日)

アクセス:車の場合、関越自動車道「渋川伊香保IC」より草津方面へ県道55号を経由して、約1時間20分、または上信越自動車道「碓氷軽井沢IC」より浅間・白根・志賀さわやか街道を経由して約1時間半。公共交通機関の場合、JR吾妻線「長野原草津口駅」下車、六合地区路線バス「野反湖行き」に乗車、「旧太子駅」バス停にて下車、約14分

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