廃墟がまちの舞台に変わる「みなかみみらいマルシェ 2026」を歩く【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
JR水上駅から道の駅までの約1.5km。「みなかみみらいマルシェ2026」とは
<マルシェのテントの向こうに廃墟が>
「みなかみみらいマルシェ2026」は、9月19日(土)・20日(日)の2日間、JR水上駅から道の駅みなかみ水紀行館までの約1.5kmを舞台に開催されました。使われなくなった旅館や社員寮、工場跡など11の会場に、飲食やクラフト、ものづくり体験など約70ものブースが出店。会場間はスローモビリティ(電気バス・シェアバイク)で移動でき、点在する空き施設を巡りながら1日かけて楽しめるイベントです。

かつて団体旅行で栄えた水上温泉街ですが、時代の変化とともに客足が徐々に遠のいていた時期がありました。しかし近年は状況が変わりつつあり、空いていた店舗や建物に新しい店が生まれ、これまでとは違う客層も訪れるようになっています。2022年に始まったこのマルシェも、そうした動きの一つです。

11会場のうち、廃墟再生プロジェクトの中心に位置づけられているのが温泉街の中心に横たわる廃墟「旧一葉亭」です。建物の規模自体を縮小しながら再生する「減築」という手法で、規模を縮小する工事が完了しました。
今年、旧一葉亭はいよいよ本格的な再生工事へと動き出します。みなかみ町はこれからどんな姿に生まれ変わっていくのか、楽しみが膨らみます。
2028年、生まれ変わる姿を想像しながら旧一葉亭「廃墟ツアー」へ
旧一葉亭(旧ひがきホテル)は1948年に創業し、2019年に閉業した大型宿泊施設です。マルシェでは、ツアーに参加することで普段は立ち入ることのできない旧一葉亭の内部にも潜入できます。事前予約制のこのツアーは、開催期間中に5回の開催を予定していたものの、満員のため追加回も設けられたそうです。ヘルメットを装着し、スタッフの案内のもと、一度は客室に作り替えられた円形の浴室跡や、増改築を繰り返して複雑に入り組んだ通路を進みました。何度も手を加えられてきた建物なのだと、歩くほどに実感します。
印象的だったのは、窓ガラスのない開口部から見える景色です。みなかみの山の緑がそのまま切り取られたように広がり、利根川の流れる音も聞こえてきます。「みなかみの自然に溶け込む場所にしたい」という減築の狙いの一つが、すでにこの姿から感じ取れました。

<円形の浴場跡(特別な許可を得て撮影しています)>
工事前のこの姿を、実際にこの目で見られたことは何より貴重な経験でした。宿泊や飲食ができる観光施設として、2028年のオープンを目指しているという旧一葉亭。まちの再生の拠点として、ここからどんな変化が広がっていくのか——その行方を確かめに、また来年もこのまちに足を運びたくなりました。

<温浴施設だった場所(特別な許可を得て撮影しています)>
ツアーの後は小腹を満たしに。約70のブースで出会うグルメと手仕事
<100%ストレートジュースは濃く、甘い>
ツアーを終えた旧一葉亭周辺の会場には、食べ歩きにちょうどいいグルメが並んでいました。よく晴れたこの日、ツアーを終えて火照った体にまず向かったのが「カンキツスタンドオレンジ」。瀬戸内・しまなみ柑橘の100%ストレートジュースが、汗ばんだ体にじんわり染み渡ります。
続けて「韓国ごはん 솥시레(ソシレ)」でオリジナルのキンパを購入。食べ歩きにもぴったりのボリュームで、小腹を満たしてくれました。

ほかにも、みなかみ町で活動する2人のガラス作家による「404 Glass Studio」のガラス雑貨・アクセサリー、地元「こむろ農園」のにんにくや玉ねぎなど採れたて農産物・加工品も並び、食べる・見る・買うを一度に楽しめるエリアになっていました。


廃墟のすぐそばに、食と手仕事のにぎわいが生まれている。そんな不思議な対比も、このマルシェらしい光景です。
旧一葉亭だけではない、まちの変化を求めて会場を歩く
グルメを楽しんだ後は、もう少し会場を歩いてみることにしました。まず立ち寄ったのは「Walk On Water」。今年の目玉企画だという「水場 -WATER BAR-」で、町内の湧水を飲み比べてみます。武尊山水系の水は口当たりが柔らかく、すっと喉を通る軽やかな味わい。三峰山水系の水も同じく口当たりは柔らかいのですが、こちらは少し重みを感じる飲みごたえで、採水地によってこんなに違うのかと驚きました。
次に向かったのは、前々から気になっていた「MIDORI SOW」です。かつてはごく普通のアパート「みどり荘」だった建物が、オーナーなき後にリノベーションされ、2020年に複合施設として生まれ変わりました。

今回のマルシェでは、隣接する道路用地を実験的に活用した出店エリアが設けられ、様々な出店者が軒を連ねていました。

<人気のみなかみ土産も出店>
最後は「旧ランドリー工場」。革小物ブランド「ASU leather works」による刻印キーホルダーのワークショップの様子を見学してきました。

かつて洗濯機がずらりと並んでいたであろう場所で革小物づくりが行われている光景は、なんだか新鮮な組み合わせです。

<好きな言葉を刻印できます>
昼間とは違う表情を見せる、夜の「旧ひがき寮」
たくさん歩き回って日が落ちる頃、ぜひこの時間帯に訪れてみたいと思っていたのが「旧ひがき寮」です。ツアーで巡った旧一葉亭(旧ひがきホテル)の従業員寮として使われていた建物で、向かい合う棟の間を進むと、路地の幅が奥に向かうほど狭まっていく独特な構造をしています。

<昼間の旧ひがき寮>

<夜の旧ひがき寮>
昼間も趣がありますが、日が落ちるにつれて、その表情はさらに幻想的なものへと変わっていきました。軒先に灯るあたたかな光に誘われるように人が集まる様子は、みなかみの人と人とのつながりをそのまま映し出しているようです。
私が気になったのは、銅や真鍮のアクセサリーを手がける「mArinO」。季節や日々の景色から見つけたかたちを作品にしているそうで、ピンズやネックレスのほか、小さな月をかたどった「月面ブローチ」のワークショップも開催されていました。

<シンプルなリングも可愛い>
そして一番の目当てだったのが、廃材からアップサイクルキャンドルを手がける「eS.」による夜の点灯です。キャンドルにゆらゆらと火が灯ると、路地全体がやわらかな光に包まれました。

<押し花を使った華やかなキャンドル>
夜、鈴木家母屋の脇を抜けると東大生による「廃墟再生バー」が出現
<鈴木家母屋>
「鈴木家母屋」は、大正時代に建てられた民家です。住む人がいなくなった今も、ご家族が大切に守り続けています。
その家の脇の路地を奥へ進むと現れるのが、廃墟再生バー。かつて車庫として使われていた場所で、今の車には少し狭く感じますが、昔の軽自動車ならすんなり出入りできた幅なのだそうです。満月のようなランタンの光に導かれるように、路地を奥へと進みます。

バーを営むのは、廃墟再生プロジェクトに関わる東京大学の学生たち。立ち飲みで、その場に居合わせた人たちと語らいながら、4種類のジンを味わえます。私がいただいたのは、はっさくのリキュールを使った一杯。爽やかで、するすると飲めてしまいました。

廃墟再生プロジェクトとともに、みなかみのまちは少しずつ、しかし確実に姿を変えていきます。その変わりゆく様子を、これからも見届けていきたい取り組みです。
来年はどんな景色に出会えるか、皆さんも確かめに訪れてはいかがでしょうか。
※この取材は2026年9月に行いました。
インフォメーション
みなかみみらいマルシェ2026
住所:群馬県利根郡みなかみ町湯原地区周辺(水上温泉街)
開催日:2026年9月19日(土)・20日(日)
開催時間:11:00~20:00
料金:入場無料(旧一葉亭内部見学ツアーのみ3,000円、ワンドリンク付)
HP:https://www.minakami-haikyo-saisei.com/
Instagram:@
望月 優衣