織田家の大名庭園「楽山園」を巡る【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

織田家の大名庭園「楽山園」

更新日: 2026年08月21日

楽山園は織田信長の次男である信雄が初代藩主を務めた小幡藩の藩邸跡であり、国の名勝に指定された群馬県唯一の大名庭園です。遠くの山々を借景として利用するなど織田家統治の当時の姿を保った庭園での心休まる一時を楽しんでください。

「拾九間長屋」で楽山園の歴史や町の見どころを知る

拾九間長屋

「楽山園」では、「番所」と呼ばれる受付で入園の手続きを行い、ガイドである「ごあんない」のリーフレットをもらいます。「中門」から入って、すぐに案内板があります。案内板にはガイドにある楽山園の俯瞰図と同じ絵があり、その絵から楽山園の大きさが伺い知れます。このような施設では、自分の好きなように巡るという方もいると思いますが、今回は、予備知識がないので、ガイドにある「オススメ散策ルート」に沿って、巡ることにします。

 

まずは、「拾九間長屋」に向かいます。拾九間長屋のガイダンス室では映像「織田家ゆかりの城下町 甘楽町」(15分間)や展示された資料を通して、小幡藩や織田家ゆかりの城下町である甘楽町の歴史を知ることができます。楽山園は、小幡藩二万石の藩邸「小幡陣屋」に付属する大名庭園を指すのが本来ですが、現在では藩邸跡を含めて、楽山園とされています。楽山園の造営は明確になっていませんが、「楽山園由来記」には、1621年に初代藩主である信雄が楽山園の庭園部を造営したと記されていて、その後に、小幡藩の3代目の藩主である信昌により、藩邸「小幡陣屋」が1642年に完成したとされています。

 

楽山園という名前の由来は、「知者ハ水ヲ楽シミ、仁者ハ山ヲ楽シム」という『論語』の故事論語から名付けられたと言われ、初代藩主である信雄の世の平和と領民の安心を願う気持ちが込められているとのことです。

 

拾九間長屋にある50分の1のジオラマは、「陣屋絵図」や、「小幡藩藩邸図」、「上毛甘楽郡小幡御住居之図」を参考に制作されたものであり、建物が復元されていない現在では、このジオラマにより当時の様子をうかがうことができます。

 

このガイダンス室で目にとまったのが、楽山園とは直接関係がないのですが、織田信長の肖像画です。この肖像画は信長本人に最も似ていると伝えられているそうで、私が学校の教科書などで見慣れた絵とは似ているような・・・似ていないような・・・ですが、「信長はこのような顔立ちだったのだろうか」と想像が膨らみました。

 

<楽山園への入口は圧倒的な迫力の中門>

 

<園内の案内板>

 

<資料や映像を見ることができる拾九間長屋>

 

<様々な貴重な資料や出土品が展示>

 

<当時を偲ばせるジオラマ>

 

<最も似ているとされる織田信長の肖像画>

楽山園の庭園の見どころを巡る

楽山園の庭園の見どころ

楽山園の庭園は、造成の際に京都から庭師を招くなど桂離宮にも通じる特徴を持つ池泉回遊式の庭園です。「昆明池」を中心とした起伏のある地形の中に「梅の茶屋」と「腰掛茶屋」を配し、それらを散策路で繋いでいます。さらに、庭園の周囲にある紅葉山や、連石山、熊倉山などを借景として、深い奥行き演出した空間は“庭園美の極み”とのことです。オススメ散策ルートでは庭園内に10か所のビュースポット(①〜⑩)が設定されているので、それに沿って歩くことにします。

 

「庭門」⑩から入ると、まず目に飛び込んでくるのが「昆明池」です。昆明池のほとりに拝石①があります。当時は藩主、または藩主に許された者だけが立つことができた場所ですが、拝石に立ち庭園を眺めます。借景を利用しているためでしょうか、一般的な庭園のように閉じた空間ではなく、遠くの山々も取り込んだ限りない広がりを、私は感じました。

 

<拝石ごしに眺める広がりのある庭園>

 

庭園内には800本以上の樹木が植えられています。桜も多くあり、春になれば花のピンク色が来園者の目を楽しませてくれます。

 

<春になれば多くの桜が目を楽しませてくれます>

 

「沢渡石」②から、「腰掛茶屋」④を眺めつつ、「石階段」③の上にある梅の木を目指します。

 

<沢渡石越しに見る腰掛茶屋>

 

<石階段の先には梅の木が>

 

梅の木は庭園内でも高い位置にあるので、見晴らしが良く、沢渡石や、腰掛茶屋、さらには昆明池などを眺めることができます。梅の枝が低いので木の下を通り抜ける際には頭上に注意してください。

 

<梅の木からは沢渡石、腰掛茶屋、昆明池が見えます>

 

「梅の茶屋」④は、屋根が茅、庇がコケラの茶屋であり、室内には畳が敷いてあります。庭園においてもっと高い位置にあり、茶屋に上がって藩主気分で庭園を見渡すことができます。

 

<園内の最も高い位置にある梅の茶屋からの景色>

 

腰掛茶屋⑤は一見なんの変哲もない茅葺きの茶屋ですが、五角形の建築物で、全国的にも珍しいとのこと。

 

<全国的にも珍しい五角形の腰掛茶屋>

 

昆明池には中島が浮かんでいますが、その中島をつなぐのが土橋です。土橋は木製であり、そこに土を盛り、さらに人が歩く部分には砂利が敷かれ、両端には芝が張られています。

 

<昆明池に浮かぶ中島をつなぐ土橋>

 

中島に渡り、振り返ると2つの茶屋が見えます。「この庭園・・・、どこから見ても美しい・・・」と感心してしまいました。

 

<中島で振り返ると2つの茶屋が見えます>

 

オススメ散策ルートのビューポイントの中には、明確な位置がわからないポイントもあります。⑥のポイントはこのあたりだと思い、写真を撮ります。昆明池の中島と土橋が映っています。

 

<土橋を中央に昆明池と中島が見えます>

 

木陰が気持ち良い「飛石」を歩き、振り返ると、遠くに腰掛茶屋が見えます。もしかしたら、腰掛茶屋は、この庭園のほとんどの場所から見える位置にあるのかもしれない・・・と思えてきました。

 

<夏の散策では木陰が心地よい飛び石>

 

「南東庭園」と呼ばれるエリアには、四角い稈が特徴の「四方竹」と「ぼたん園」があります。ぼたん園は復元当時には2339株のぼたんが植えられていましたが、残念ながら多くが枯れてしまったそうです。残ったぼたんは多くはありませんが、初夏には「百花の王」と呼ばれるその豪華で大輪の花が来園者の目を楽しませてくれることと思います。

 

<大きくなった姿を見たい四方竹のエリア>

 

<初夏には大きく豪華な花が楽しめるぼたん園>

 

オススメ散策ルートのビューポイント⑦は、このあたりだと思います。「泉水」や「陵雲亭」⑧が見えます。泉水には水蓮が咲き誇り、クロード・モネの名画『水蓮』を連想してしまいました。……とはいえ、この日は真夏の暑さ。陵雲亭では抹茶をいただけるので、あともう少し頑張ります。

 

<小高い丘の上から泉水と陵雲亭が見えます>

 

<クロード・モネの名画『水蓮』を連想させる泉水の水蓮の花>

 

オススメ散策ルートでは、陵雲亭⑧次には「羽衣石」⑨なわけですが、ちょっとルートから外れて、昆明池に水を注いでいる滝を見にいきます。庭園にある昆明池と泉水では「世界かんがい施設遺産」に登録されている「雄川堰」の「小堰」から水をひき、利用しています。この水が通る「堰水通り」には魚やカニがいるそうで、実際に、私も見ることができました。

 

<雄川堰の小堰からの水をひく堰水通り>

 

<雄川堰からの水が流れ落ちる滝>

 

庭園には「熊井戸」と呼ばれる井戸がありますが、なぜ熊なのかは、説明はありません。「上野国誌」によると、この楽山園が作られる前には、この土地には熊井戸氏の館があったとのことなので、それと関係があるのかもしれません。

 

<庭園内唯一の井戸である熊井戸>

 

最後のビューポイントは「羽衣石」⑨です。羽衣石は昆明池に浮かぶ大きな石です。羽衣石は天人石(てんにんいし)ともいい、「水に浮かぶ天女の羽衣がヒラヒラと舞う様子を想像して名前がつけられたのでは・・・」と言われているそうです。この羽衣石と、腰掛茶屋、梅の茶屋を入れて庭園内のラストショットとしました。

 

<羽衣石を入れた庭園内の最後の一枚>

陵雲亭で楽しむ抹茶と借景

陵雲亭

「楽山園由来記」や「陣屋絵図」には「松の茶屋」(別名:陵雲亭)という別荘的に利用されていた建物の存在が記載され、その名をとったものが現在の「陵雲亭」です。ここでは、抹茶(薄茶)をいただきながら、「泉水」を中央に置き、借景を利用した景色を楽しむことができます。

 

過ごしやすい季節なら屋外での一服も良いと思いますが、今は真夏です。室内でいただきました。抹茶は薄茶ですが、散策の途中でいただくのですから、濃茶よりも喉越しが良い薄茶がピッタリです。特に夏には冷たい薄茶が、強い日差しの下を歩いてきた体を生き返らせてくれました。もちろん、お願いすればホットで楽しむこともできます。

 

<遠くの山々を借景に抹茶を楽しめます>

 

<冷たい薄茶と季節で変わる干菓子>

復元された御殿跡からその大きさを知る

復元された御殿跡

現在、藩邸内の建物は、詳細な資料が残っていないことから復元されていません。そこで、楽山園では「県庁絵図」、「明和絵図」、「上毛甘楽郡小幡御住居之図」をもとに、御殿の跡を平面表示し、かつての御殿の間取りなどを紹介しています。

 

御殿は約900平方メートルの陣屋造りであり、白い部分は御殿の廊下や板の間、灰色の部分は部屋や書院、緑色の部分は中庭などを再現しています。

 

庭園の景石は、群馬県藤岡市などで産出される三波石を用いて作るなど、時代・建築考証を重ねた藩邸は実に精巧に出来あがっています。建物が再現されていないのは残念ですが、平面表示された御殿跡は、かえって想像を掻き立てられ、当時の御殿の広大さに圧倒されます。

 

藩邸内には、土塁、からぼり、土塀、板塀などが再現されています。これらの土塀や板塀は中途半端な長さに感じられたので、部分的に再現したのだろうか?と思いましたが、後から聞くとこれらの塀は、御殿から庭園が見えないような目隠しの意味があり、庭門も通常は閉じられていて、御殿から庭園を見ることができるのは、塀によって遮られていない「表御居間」や「御居間書院」など藩主の部屋に限られているのだそうです。

この藩邸には金明水と銀名水という2ヶ所の井戸があったのですが、金明水は、使用人が居住するエリアから土塁により隔てられているので、金明水は藩主などが使い、銀明水は使用人などが利用していたのではないかと想像しました。

 

楽山園からの退出は北裏門から行いますが、北裏門の外から土塁などがのぞけます。この春に甘楽町を訪れた際に北裏門から見えた土塁を古墳か?と見間違い、驚いたことを思い出しました。

 

<表御居間跡からみる庭園>

 

<御殿近くにある金明水>

 

<使用人のエリアにある銀明水>

 

<再現された土塁とからぼり>

 

<楽山園からの出口である北裏門>

四季の移ろいにつれ変化する庭園の魅力

庭園の魅力

(画像提供:甘楽町)

 

今回の散策は梅雨明け間もない暑い日でした。強い日差しにより木々の緑と青空が池に映る季節です。しかしながら、庭園の魅力は夏に限られるものではなく、楽山園は季節の変化に応じた顔を見せてくれます。

 

季節が巡り秋を迎えると、庭園は木々や遠くの山々が赤や黄色に色づき、より一層趣深い景色を見せてくれることでしょう。

 

<庭園が赤や黄色に彩られる秋>

(画像提供:甘楽町)

 

冬には葉を落とした木々が凛とした空気に溶け込み、静寂に包まれた美しい庭園へと姿を変えます。

 

<静寂に包まれた庭園が澄んだ水面に映される冬>

(画像提供:甘楽町)

 

そして春になれば、草木が芽吹き、色とりどりの花々が咲き誇る華やかな風景が広がります。

 

<萌葱色の若葉と淡いピンクのヤマザクラが輝く春>

(画像提供:甘楽町)

ホタルや月を楽しむイベントも楽しみの一つ

ホタルや月を楽しむ

<画像提供:甘楽町>

 

楽山園では、四季折々の風情を楽しめるイベントも開催されています。

 

初夏の風物詩「大名庭園のホタル鑑賞会」では、幻想的に舞うホタルの光を眺め、秋の「御殿のお月見会」では、邦楽の演奏に耳を傾けながら中秋の名月を楽しむことができます。

 

さらに、春景色の中、和の趣に包まれたひとときを過ごせる「春のお茶会」など、季節に合わせた催しが行われているので、訪れる時期に合わせて参加してみるのもおすすめです。

 

 

楽山園は、織田家によって築かれた大名庭園であり、国の名勝に指定されています。実際に訪れて最も印象に残ったのは、その圧倒的な「広がり」でした。復元された御殿跡と、周囲の山々を巧みに取り込む借景が一体となり、一般的な庭園にはない開放感あふれる空間を生み出しています。江戸時代初期と変わらない雄大な景色を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごせるのも楽山園ならではの魅力。歴史と自然が織りなす穏やかなひとときを味わいに、ぜひ楽山園を訪れてみてください。

インフォメーション

楽山園

 

住所:群馬県甘楽郡甘楽町大字小幡648-2

電話:0274-74-4795

営業時間:3月~10月/9:00~17:00(入園は16:30まで)

11月~2月/9:00~16:00(入園は15:30まで)

定休日:12月29日~翌年1月1日

 

HPhttps://www.town.kanra.lg.jp/kyouiku/bunkazai/map/20120330191558.html

 

 

陵雲亭

 

料金:一服500円(薄茶・干菓子付き)※干菓子は季節で変わります

福田 靖様

福田 靖

私は、この春に甘楽町で開催された「さくらウオーク」に参加した際に楽山園を知り、ぜひ訪れたいと考えていました。今回、楽山園を訪れて、この魅力を知ることができ、それを紹介できることを嬉しく思います。