なぜ彼らは前橋を選んだのか。商店街に集まる移住者たちの4つのケース【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
焼肉と炊きたて米 肉日和|前橋で出会った相棒と、お客さまの大切なひとときをつくる
北海道・札幌出身の業天(ぎょうてん)光幸さんが前橋を選んだのは、ふとしたご縁がきっかけでした。中国で26年間飲食業を営んだ後、恩師を頼って前橋を訪問。大きな川が流れる街の風景と人々の横のつながりの強さに惹かれ、3度の訪問を経て移住を決意します。前橋で最初に訪れた居酒屋で働いていたのが、肉日和の共同オーナーである高橋淳さん。高崎市出身で当時飲食業歴15年以上の高橋さんと意気投合し、2人でこのお店を立ち上げました。

お店のコンセプトは「欲しいものを欲しい日に欲しい方法で」。
お客さま一人ひとりの好みの部位や過ごし方を来店のたびに手帳に書き留め、次回来店時には「前回こんなことをおっしゃっていたので」と一歩先の対応ができる仕組みを整えています。記念日のサプライズや個室でのプライベートな時間など、完全予約制だからこそできるきめ細かいサービスが光ります。
料理の核となるのは、上州牛などの厳選肉、川場村のブランド米・雪ほたかの釜炊きご飯、岩田養鶏場の希少卵「稀(まれ)」という三つの柱。どの部位も甲乙つけがたい美味しさでしたが、中でも特に印象に残ったのが「サガリ」。横隔膜付近の赤身肉で、しつこさがなくさっぱりとしているのに、噛むほどに甘みと旨味がじんわりと広がります。脂が苦手な方にもぜひ試してほしい一品です。

雪ほたかの釜炊きご飯は、お客さまの到着と同時に炊きたてが出せるよう逆算して仕込みます。「私たちの余裕がお客様のゆとりになる」その丁寧な準備があってこそ、ゆったりとした贅沢な時間が生まれるんですね。
外を歩く人は少ないのに、店に入るとなぜか満席——前橋のそんな光景に惹かれ、この街の可能性を感じた業天さんらしい哲学です。
ルルルなビール|「ないなら作ろう」。前橋発、マイペースなクラフトビールの挑戦
<左から「思案坂」「アンバーエール」「国道50号」>
小さな看板を頼りに階段を上ると、そこには秘密基地のような空間が広がります。窓ガラスにはお客さんたちの落書き、壁には色とりどりのメモが貼られ、誰かの頭の中をそのまま抜き出したよう——それがクラフトビールのお店「ルルルなビール」です。

<大学進学を機に群馬に住むようになった竹内さん>
青森県出身のオーナー・竹内さんが前橋でこの店を開いたのは、「群馬には何もない」という声に対するひとつの答えでした。
「何もないで終わらせるのではなく、地酒や銘菓のように『前橋といえばこれ』と言えるものを自分で作ろう」そう思った竹内さん。
たまたまビールが好きだったこともあり、クラフトビールという選択肢に行き着きました。ビールづくりには専門の学校や教材はないため、県外の醸造所を訪ね歩き、独学のような形で技術を習得したそう。
店名の「ルルルなビール」は前橋の遊園地「るなぱあく」から取ったもので、前橋への愛着がにじみます。現在は群馬の地名を冠したオリジナルビールを複数展開。フルーティーなものからコクのある黒ビールまで、誰にでも分かりやすく楽しんでもらえるラインナップを揃えています。
そして実はこちらのお店、2階に店舗が入る建物の1階でビールを醸造しています。
銀色の大きなタンクが並び、麦の香りと熱気が漂う空間は思わずシャッターを切りたくなるほどかっこよく、街なかで作ったビールをその場で飲める、この店にしかできない体験がここにありました。

<建物1階にある醸造所。作業するスタッフも長野県出身だそう>
モアスープ|農家だから作れる、畑からはじまるごはん
<平飼い卵の厚焼きサンドは純国産地鶏・岡崎おうはんの卵を使用>
前橋の中心商店街に、ガラス張りのおしゃれな外観が目を引くお店があります。店先には「平飼い卵の厚焼きサンド」の文字——自然の恵みや素材へのこだわりが伝わってきて、食べる前からわくわくしてしまいます。それが「モアスープ」です。

<店舗の接客担当を務める茉穂さん>
オーナーの椛沢さんご夫婦は、もともと飲食店に野菜を卸すプロの農家。遺伝子組み換えをしない無農薬野菜にこだわり、自ら育てた野菜・卵・米を使った料理を提供するこの店舗は、農家としての仕事の幅を広げるために生まれました。
宮城県出身の茉穂さんは看護師として横浜で働いていましたが、前橋出身の達郎さんと結婚し前橋へ。最初は「本当にここでお店をやるの?」と不安を感じるほど、当時の商店街はシャッターが目立ちました。しかしそれから4年、前橋は毎週金曜日開催の「風街夕やけマルシェ」など、地域の力で賑わいを取り戻しつつあり、お店の常連さんも増えました。「目が合えば入ってきてくれる」という、仲良しのお客さんもいるそうです。
今回いただいたのは平飼い卵の厚焼きサンドと、自家製ケールのスムージー。ボリュームたっぷりの厚焼きサンドは、パンも卵もふわふわと軽く、ペロリと食べられてしまう優しい味。
自家製ケールのスムージーは、ケールの苦いイメージを覆す飲みやすさ。使用している自家製ケールは、収穫体験で畑を訪れる子どもたちも生のままパクパク食べてくれるのだそう。爽やかで、自然と太陽の恵みをまるごと体に取り込んだような気分になりました。

<ガラス張りの店構えが目印。店先のメニュー表示が自然と足を止めさせる>
株式会社Vitalize|ITエンジニアが、前橋の街に飛び出す理由
<画像提供:株式会社Vitalize>
前橋を拠点にシステム開発・地域活動・音響DJサービスなど多彩な事業を展開する株式会社Vitalize。代表の小林洋平さんがこの街に拠点を構えたのは2023年のことです。
もともと新宿本社でエンジニアとして働いていた小林さんは、妻の実家がある群馬県を休日に訪れるうちにこの土地への親しみを育てていました。そんなある日、取引先から「今、前橋が面白いですよ」と声をかけられ訪れてみると、民間のプレイヤーが主体となって新しいまちづくりに次々と挑戦している姿がありました。その勇敢な空気に惹かれ、移住を決意したといいます。

<左が小林さん 画像提供:株式会社Vitalize>
前橋で活動して気づいたのは、「街をみんなで育てていく文化」の存在。以前は「街は通り道」という感覚だった小林さんにとって、立場の異なる人たちが垣根を越えて街の魅力をつくっていく前橋の姿はとても新鮮でした。小林さんが活動の軸に置くのが「豊かさとは何か」という問いです。仕事や家族とは異なる、気軽に立ち寄れるサードプレイス(第三の居場所)が街にあること。それが小林さんなりのひとつの答えです。
前橋の魅力を「ドラクエのまち」と表現する小林さん。「風街夕やけマルシェ」などのイベントでは週平均1.5回のペースでDJとして参加し、「商店街のど真ん中でDJをした回数のギネス記録があったら意外と狙えるかも」と笑います。そんな街への愛着は毎月第3土曜日開催の「Cleanup Coffee Club」にも表れており、コーヒーを片手にゴミを拾いながら地域の人々とつながる場をつくっています。
「非日常を、日常にしてしまう遊び心を大切に」
そんな小林さんたちの思いが、前橋の商店街を少しずつ変えています。

<株式会社Vaitalizeのメンバー 画像提供:株式会社Vitalize>
縁に導かれた人、課題に挑んだ人、家族とともに歩んだ人、まちの可能性に惹かれた人。前橋を選んだ理由は、それぞれ違います。
4人に共通するのは、この街で自分らしい挑戦を始めたということ。そんな個性豊かな人たちが集い、育てていく前橋の商店街に、ぜひ足を運んでみてください。
インフォメーション
焼肉と炊きたて米 肉日和
住所:群馬県前橋市城東町3丁目4-3 EIGHTビル102
営業時間:ランチ 11:30〜14:00/ディナー 17:30〜23:00(L.O.22:00)予約制
定休日:不定休
Instagram: @yakiniku_nikubiyori
ルルルなビール
住所:群馬県前橋市本町2-1-12
営業時間:月〜金 17:00〜22:00/土 12:00〜22:00/日 12:00〜20:00
定休日:臨時休業あり
Instagram :@lululu.na.beer
モアスープ
住所:群馬県前橋市千代田町2丁目11-5
営業時間:土日11:00〜19:00/平日12:00〜19:00
定休日:月曜日(臨時休業あり)
Instagram:@more__soup
株式会社Vitalize
望月 優衣