冬・春、そして初夏へ。季節を巡る牛伏山の旅。標高490.5mで味わう森林浴と、優しいハイキングのすすめ【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
木漏れ日の遊歩道。謎の牛マークに励まされ、新緑の階段を歩く
<赤谷公園から出発 天気は快晴です>
リュックの中におにぎり、パン、水分補給のための水、そしてカメラを詰め込み、準備は万端。
朝8時20分、麓にある赤谷公園駐車場に車を停めて早速出発しました。公園の敷地内を通り抜け舗装された道路を少し進んでいくと、「牛伏山自然遊歩道」と書かれた大きな看板が現れました。すぐ横には山頂へのルートを示す道標もあり、期待に胸を膨らませて一歩を踏み出しました。

<立派な自然遊歩道の案内看板>
歩き始めて間もない8時32分、「山頂へ700m」と書かれた標識を発見。
そこからは、斜面に沿って綺麗に整備された擬木の階段がどこまでも長く続いていました。「700メートルなら大したことはないだろう」という、何の根拠もない自信は、歩き始めてわずか数分で打ち砕かれることになりました。上りの階段が続くにつれ、運動不足の身体からは一気に汗が吹き出し、激しい息切れが始まりました。自分自身のあまりの体力のなさに、歩きながら本当に驚いてしまうほどです。
私の心肺機能が悲鳴を上げ始める中、上から軽快に下りてくる二人組の登山客とすれ違いました。お互いに「こんにちは」と挨拶を交わしましたが、こちらは声を出すのもやっとの状態。さらにその後、後ろから走ってきたトレイルランニング風の男性に、あっという間に追い抜かれていきました。息を切らす私とは対照的な、周囲のタフさに圧倒されながらも、足元の階段が非常に綺麗に整備されていることだけが、素人としての大きな安心材料でした。

<山頂まで700M ここから登っていきます>

<整備された道が続きます>
山道は街の喧騒から完全に切り離された世界でした。足を止めると、周囲には心地よい鳥のさえずりと、風に揺れる木々のざわめきだけが響いています。木々はそれほど背が高くありませんが、頭上を覆うように葉を広げて強い日差しを優しく遮ってくれるため、体感としては涼しいのが救いでした。
そんな中、足元の階段にふと目を落とすと、牛の可愛らしいキャラクターと共に「1000」という数字が書かれた不思議なマークがあることに気づきました。「おそらく階段の段数かな?」と思いましたが、自分の息遣いの激しさに必死で、その数字が何を意味するのかをじっくり検証する余裕はありませんでした。

<牛さんマーク>
木々の隙間からは、時折下界の景色がチラチラと見え隠れします。その景色が徐々に小さくなっていく様子に、「結構な高さを登ってきているんだ」と確かな実感が湧いてきました。
このあたりで地図アプリを起動して現在地を確認したところ、ひとつの疑惑が頭をよぎります。「ここは本来予定していた登山道ではないのでは?」と感じたのです。あらかじめ調べていた登山道は、「見晴台」というポイントを通過して山の尾根を歩くルートのはずでした。ところが、画面に表示された現在地は見晴台から大きく離れ、なぜか山頂のすぐ近くを示しています。「もしかして、今歩いているのは別ルートなのだろうか……」と思いつつも、目の前の道のりは十分にハードです。息がもう限界寸前だったこともあり、とにかく先を急ぐことにしました。
ちょうどその時、道の脇に木製のベンチが設置されているのを見つけました。これ以上ない最高のタイミングで現れた特等席に、吸い寄せられるように腰を下ろしました。リュックからおにぎりを取り出して頬張ると、自身の激しい息遣いも徐々に落ち着き、代わりに山の静けさが身体で感じることができます。鳥の声と風の音に包まれる休憩時間は、心地の良い時間でした。

<綺麗なベンチもありました>
新緑眩しい東屋での出合い。驚くほどタフな山の先輩たち
休憩を終え、気力を振り絞って再出発します。また例の牛さんマークが足元に現れました。今度の数字は「450」です。やはりこの数字は階段の残り段数だったのだと分かりました。終わりが見えてきたことで、折れかけていた足が少し軽くなったような気がします。
お恥ずかしながら、これほどまでに息を切らし、必死になって足を運んだのは何年ぶりだろうか。「山頂まで200m」という案内からの最後の階段は、肉体的に本当に苦しく、大変な道のりでした。何度も立ち止まりそうになる自分を奮い立たせ、激しい息のままなんとか階段を登り切りました。春の桜の時にも訪れた、山頂エリアの東屋に無事到着です。時刻は9時24分、公園から歩き始めて1時間ほどの行程でした。

<なかなか急勾配な階段でした>
東屋の周りは、春に見せた桜色の世界から一転し、眩しい新緑が広がっています。それまで登ってきた木陰の道よりも気温が高く感じられます。蝶々や丸々とした太っちょの蜂が羽音を立てて飛び交う様子は、生命力に満ちた初夏の山そのものです。それだけに時折吹き抜ける風が汗ばんだ肌にに気持ちよく、眼下には素晴らしいパノラマが広がっていました。

<新緑の中の東屋です>

<東屋近くからの景色>
案内図を見てここまでのルートを確認してみました。登っている途中の予感通り、私が歩いてきたのは尾根を行く登山道ではなく、山頂へまっすぐ登る「自然遊歩道」でした。
最初にしっかり看板が出ていたので、完全に私の勘違いです。案内の看板自体はとても分かりやすく設置されているので、初めて訪れる方でも看板をよく見て進めば安心です。
東屋で一息ついていると、一人のご年配の男性がトレッキングポールを手に、こちらへ歩いてこられました。お見受けしたところ、かなりお年のように感じられる風体です。私が未だに息を切らし、足腰もふらついているのに対して、その男性は驚くほど平然と、息一つ乱さずにしっかりとした足取りで歩いてこられます。そのタフな姿を目の当たりにして、自分の目を疑うほどの衝撃を受けました。
お話を伺ってみると、牛伏山を習慣的に登り始めてすでに5年が経つとのこと。地元の登山会にも所属しており、この周辺の様々な山を普段から色々登り歩いているのだと笑顔で教えてくれました。日々山に登り、自然の中で鍛えられている方の年齢を全く感じさせない、強靭な身体とバイタリティには圧倒されるばかりでした。
そんな山の先輩との楽しい会話で心地よい刺激をもらい、いよいよ本当の山頂へと向かいます。以前目にした琴平神社や平和の鐘の脇を通り過ぎ、大きな電波塔の脇をすり抜け、10時ちょうどに標高490.5mの牛伏山山頂へ到着しました。

<490.5M・牛伏山山頂>
へっぴり腰で岩場越え。家族連れとも行き交う「見晴台」ルート
<登山道の案内板>
山頂を堪能し、下山では「登山道」へと入っていきました。山歩きの、ずぶの素人である私にとってここからが本当の未知の世界です。
土の路面に石や木の根っこが露出した山道を少し進むと、目の前のルートを塞ぐように、道の真ん中に大きな岩がどっしりと鎮座していました。「本当にこの岩の上を進むのか?」と一瞬足が止まります。周囲を見渡しても他に道はなさそうなので、意を決しへっぴり腰になりながらもなんとかその岩を乗り越えていきました。少しのスリルを味わったことで、心の中では「なんだか一気に登山らしくなってきた」と、にわかにテンションが上がってきました。そこから先は、多くの人に踏み固められているせいか、思いのほか足がかりが良く歩きやすい道が続いていきます。

<素人に立ちはだかる岩・少しテンション上がります>

<登山道は石と根っこに気をつけて進みます>
新緑の木漏れ日を浴びながら、気分よく一歩一歩進んでいきます。道幅が狭く、一歩間違えれば滑落しそうな傾斜もあるため、心の中で「流石に足元が不安定だから、小学生くらいの子どもを連れた家族連れにはお勧めできないのかな」と考えながら歩いていました。
しかし、向こうから賑やかな声と共に、山道を登ってくる家族連れとすれ違いました。そこには、小学生の中学年くらいに見える女の子もいます。大人の私などよりも遥かに軽快で、体力もありそうな力強い足取りでスタスタと斜面を楽しそうに登っていきました。その元気な姿を見て、私の先入観は見事に覆されました。注意していれば、子供でも十分に大自然の冒険を楽しめるルートなのだと実感しました。

<場所によってはロープもあり安心です>
その後、二度ほど舗装された林道を横切る形で登山道を下っていくと、目的地である「見晴台」に到着しました。そこには青いベンチがポツンと置かれており、先客の男性が一人、静かに景色を眺めていらっしゃいました。
ここでも少しお話を伺う機会に恵まれたのですが、この男性も非常に登山の経験が豊富なベテランの方でした。私が初心者であることを伝えると、周辺にあるおすすめの山や、初心者向けのルートなどをとても気さくに詳しく教えてくれました。先輩のアドバイスを聞いているうちに、「次はあの山に挑戦してみよう」と、新しい登山への決意が固まった瞬間でもありました。
そして、この出会いでも改めて驚かされる出来事がありました。お話を伺いながら、見た目の雰囲気から「きっと50代後半くらいの方だろうな」と勝手に思っていたのですが、実年齢は「75歳」だと言うのです。先ほどの東屋での出会いに続き、またしても山の先輩のタフさに驚かされました。登山という趣味が持つ、人を若返らせるような不思議な力に、改めて魅力を感じた瞬間です。男性はその後、軽快な足取りのまま、再び山を登っていきました。

<見晴台の休憩ベンチ>
失敗も道草のうち。幅広い年代を包み込む牛伏山の包容力
<登山道の雰囲気も変わってきました>
私も下山を再開します。途中の分岐点に到着し、案内看板を見ながら、今回は「北登山口」と呼ばれるルートを目指して進むことに決めました。
歩みを進めていくと、それまでの岩や木の根っこが露出していたゴツゴツとした山道から、足元がふかふかとした、落ち葉が辺り一面に積もった道へと山の表情が変わっていきました。踏みしめる落ち葉を楽しみながら下っていくと、やがて視界が開け、舗装された林道へと出ましました。

<分岐点の案内・綺麗な作りで安心です>
舗装路に出たことで、ホッとして安心してしまったことが、今回の道中でいくつかあったルートミスのひとつに繋がります。本来であれば舗装された林道を一度横切り、その先にある土の登山道へと進むのが正しい正解ルートでした。しかし、安心感から私は、そのまま舗装された林道を道なりに下り進んでいってしまったのです。
しばらく歩くと林道の起点を通過し、民家が点在する地域の生活道路へと出てしまいました。ここで地図アプリで場所を確認して初めて、「また早とちりだ」と気が付きました。しかし、引き返すよりもそのまま進むことにし、生活道路を進みます。そこで痛感したのは、アスファルトの容赦ない照り返しです。先ほどまでの木陰に守られた涼しい山道とは一変し、遮るもののない直射日光と熱気が一気に押し寄せ、山を歩いている時以上に体力を奪われる大変な道のりとなりました。汗をだらだらと流しながら、10分ほど歩いて行くと、道路の脇に「北登山口」の看板を発見しました。

<北登山口の案内板>
このまま舗装路を歩いていくのは少し悔しい。そう思った私は、北登山口から再び土の登山道へと入っていきました。今度は本来下りてくるはずだった正しいルートを、逆方向に登り直す形で進みます。実際に歩いてみると、木々に囲まれた非常に歩きやすく気持ちのいい道でした。そのまま先ほど間違えて飛び出した林道の分岐点までしっかりと登り、再び北登山口へと戻ってくるという初心者なりの小さな意地で、無事にルートを歩き直しました。
そこから駐車場へと向かい、12時37分、ついにスタート地点へと戻り無事ゴールを迎えました。スマートフォンの歩数計を確認すると、表示された数字は「15,988歩」。足はガクガクでしたが、心地よい達成感を得ることができました。
今回の山歩きを振り返ると、私自身の早とちりや勘違いがありましたが、牛伏山の登山道は総じて案内看板が非常に親切かつ正確に設置されています。また、路面自体も多くの登山客たちの足によって長い時間をかけてしっかりと踏みならされており、非常に歩きやすく整備されていました。道中で行き交った人々が、タフな年配者から、身軽な小学生まで実に多様だったことが、このコースの素晴らしさを何よりも物語っています。
牛伏山は、体力に自信のない初心者からベテラン、そして家族連れまで、幅広い年代がそれぞれのペースで新緑の森林浴を心から楽しめる、まさに言葉通りの「優しいハイキングコース」でした。

<登り切った新緑の牛伏山>
自身の体力のなさや勘違いで小さな失敗をしつつも、温かい交流を通して登山の奥深さに魅了された登山でした。訪れるたび異なる表情を見せてくれる牛伏山は、誰もがそれぞれのペースで楽しめる優しい山です。新緑が美しいこの季節に、ぜひ皆さんも足を運んでみてください。
インフォメーション
吉井観光協会(吉井支所産業課内)
電話:027-387-3111
牛伏山自然公園(高崎市観光情報サイト)
HP:https://www.city.takasaki.gunma.jp/site/sightseeing/2528.html
村岡 正章