気をつけたい感染症とその予防

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更新日: 2026年04月30日

犬と人の間で感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」について正しく理解しておくことは、家族全員の健康を守るうえで欠かせません。

厚生労働省によれば、人獣共通感染症はすべての感染症の約半数を占めるとされ、動物から人へ、あるいは人から動物へと感染が広がる可能性があります。

201912月に中国で発生し、20201月から日本国内でも猛威をふるった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も人獣共通感染症です。

犬と暮らす家庭では、日常生活だけでなく、アウトドアでの活動や自然豊かな場所に旅行で訪れるなど、いつもとは違う場所、違う環境にふれることで感染リスクが高まる場面が多いため、幅広い知識が必要になることから、一緒に確認していきましょう。

 

1)代表的な人獣共通感染症で、ワクチンで予防できるもの

まず代表的なものとして挙げられるのが狂犬病でしょう。日本では長年発生が確認されていませんが、海外では依然として多くの国で流行している感染症の1つです。

狂犬病は、「犬」とついていますが犬だけが感染する病気ではなく、ほとんど全ての哺乳動物から感染する可能性があり、発症すると人も犬もほぼ100%死亡する極めて危険な感染症です。

日本国内でも法律により年1回の狂犬病ワクチン接種が義務付けられており、その際発行される鑑札や注射済票(年1回の注射をするともらえるので付け替えるのを忘れずに)は身につけておかなくてはいけません。

法律で決められているワクチンということもあってか、ドッグランや犬と一緒に宿泊できる施設などでは、証明書の提示を求められることがほとんどです。

もし持病や高齢を理由に狂犬病ワクチンが打てないと獣医師が判断した場合には、猶予証明書を発行してもらい、そのような状況でも利用できるかどうか、利用したい施設に事前に問い合わせた方がよいでしょう。

 

次に紹介したいのは、レプトスピラ症です。

レプトスピラ菌は犬・牛・げっ歯類などが保菌しており、感染動物の尿に触れることで人にも感染します。

犬では腎炎や発熱、黄疸などが見られ、人では発熱や肝臓・腎臓の障害を引き起こします。発症した犬の死亡率は非常に高く、治療が遅れると命を落とす危険性が極めて大きい恐ろしい感染症です。

さらに、レプトスピラ症は、人では「感染症法」で4類感染症に指定され、診断した医師には保健所への全数報告義務がありますし、動物(特に犬)では「家畜伝染病予防法」に基づき、獣医師に届出義務があり、特にアウトドアが好きな犬は、湿地帯や水たまりで菌に触れるリスクが高まるため注意が必要です。

 

今ご紹介した狂犬病とレプトスピラ症はどちらもワクチン接種による予防が推奨されています。

前述のとおり、狂犬病は法律で接種が義務付けられていますから、個人の判断で接種させない、ということは法律違反となってしまいます。ワクチン接種が可能かどうか、必ずかかりつけの獣医師に相談したうえで、もし接種が難しい場合には猶予証明を発行してもらうようにしましょう。

なお、レプトスピラ症は任意でのワクチン接種となります。アウトドアや自然豊かな地域で特にリスクが高い感染症ですので、レプトスピラを含む混合ワクチン(7種・8種・9種など)で予防しておくと安心です。

 

2)代表的な人獣共通感染症で、ワクチンでの予防ができないもの

次に、ワクチンでは予防できない人獣共通感染症をみていきましょう。

食中毒としてもご存じのサルモネラ症も犬と人の双方で注意すべき感染症です。

サルモネラ菌は犬・猫・鳥類・爬虫類など多くの動物が保菌しており、かみ傷や糞便を介して人に感染します。犬では下痢や嘔吐、発熱が見られ、人では胃腸炎や敗血症を引き起こすことがあります。

特に生肉食は感染リスクを高めるため、家庭での食事管理には十分気をつけましょう。

 

パスツレラ症も見逃せない感染症の1つです。

パスツレラ菌は犬や猫の口腔内に常在しており、咬傷や引っかき傷から人に感染します。

犬自身は無症状であることが多いのですが、人では傷口の腫れや痛みが強く出る場合があります。

口腔常在菌のため殺菌することはできませんから、不用意に噛まれないようにしたり、口移しで食べ物を与えるなどの過剰な接触は避けるべきです。

 

これらの感染症はワクチンでは予防できないため、生活環境の管理や衛生対策が重要となります。

 

3)寄生虫やカビによる感染症

寄生虫による感染症としては、犬回虫症(回虫幼虫移行症)が代表的でしょう。

犬の糞便中の卵が人に感染し、特に子どもが砂場で感染する例が報告されています。

人では肝臓・脳・眼などに障害を起こすことがあり、重症化すると視力障害につながることもある非常に怖い寄生虫です。

 

犬では下痢や嘔吐、体重減少が見られます。

予防には定期的な駆虫薬の投与と、糞便の適切な処理が欠かせません。

 

真菌(カビ)による皮膚糸状菌症も犬と人の間で広がりやすい感染症です。

犬では脱毛やフケ、かゆみが見られ、人では円形の脱毛やかゆみを伴う皮膚炎を引き起こします。

感染力が強いため、タオルやブラシの共用は避け、皮膚に異常が見られたら早めに獣医師に相談することが大切です。

  

4)アウトドアでとくに気をつけたい感染症

ここからは、アウトドアで特に注意したい感染症について紹介していきます。

自然環境には都市部よりも多くの病原体が存在し、犬が水や土に触れる機会が増えるため、感染リスクが高まることを忘れてはいけません。

ジアルジア症やクリプトスポリジウム症は、川や池の水を飲むことで感染する寄生虫症で、犬では下痢や体重減少、人では水様性下痢や腹痛を引き起こします。

カンピロバクター症も野生動物の糞で汚染された水から感染し、犬・人ともに下痢や発熱を起こすとされています。

 

さらに、アウトドアで最も注意すべき存在がマダニです。マダニは草むらや山林に多く、犬だけでなく人にも深刻な病気を媒介するやっかいないきものです。

特に、近年感染地域の拡大と感染者の増加が懸念されているのが「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。この感染症は2011年に中国で初めて発見されてから日本国内でも報告が相次いでいます。注目したいのは、当初は西日本を中心とした感染地域が徐々に広がりをみせ、2025年には初めて北関東での感染が確認、報告されています。

また、感染経路についても、最も一般的なのはウイルスを保有するマダニ(フタトゲチマダニ、キチマダニなど)に咬まれることですが、SFTSを発症したネコやイヌなどの血液、唾液、便、尿などの体液に触れることで感染する可能性がありますし、実際、感染したペットに咬まれたり、濃厚接触(口移しなど)したりすることでも感染事例が報告されています。

その他にも、患者の血液や体液に直接触れることで感染する接触感染が報告されており(国内では2024年に初めて報告されています)、医療従事者や家族などでの感染事例があります。

犬では発熱や下痢、人では高熱や血小板減少を引き起こし、重症化すると致死率は約1030%と高く、20256月、SFTSに感染した猫を治療していた獣医師が亡くなっています。

ライム病もマダニが媒介する細菌感染症です。

犬では跛行や関節炎、人では遊走性紅斑と呼ばれる特徴的な発疹が現れます。

日本紅斑熱もマダニ由来の感染症で、高熱や発疹を伴い、犬で重症化しやすいバベシア症も、マダニ対策を怠ると発生しやすいです。

ある意味マダニは細菌類の宝庫といってもいいかもしれません。

これらの感染症もワクチンによる予防はできません。まずはどのような状況で感染リスクが高くなるのかをしっかり理解していきましょう。

幸運なことに、マダニやノミといった外部寄生虫と呼ばれる寄生虫を予防するためのお薬は犬用だけではなく人にも存在しています。犬には定期的にノミダニ駆虫薬を処方してもらうこと、人はマダニなどがいそうな場所に行く場合には、長袖、長ズボン、マダニ等に効く成分が配合された虫よけ剤を利用するなどして、身を守りましょう。

 

5)感染症から身を守るために

これらの感染症を防ぐためには、日常生活とアウトドアの両面で予防が重要です。

飼育環境を清潔に保ち、排泄物は速やかに処理すること、犬の健康管理としては、新鮮な水とフードを与え、体調の変化をよく観察すること、アウトドアでは草むらや倒木周辺に近づけすぎないようにし、川の水を飲まないよう配慮することなどが重要です。

 

●著者プロフィール

佐藤 麻衣

・一般社団法人 全日本動物専門教育協会

・家庭犬訓練士 教師

・動物介在福祉士 教師

長年動物の専門学校で教鞭をとり、犬のトレーニングや動物介在福祉活動などに従事。

現在は全国の専門学校や大学、国内初の官民協働PFI刑務所の職業訓練プログラムに於いてトレーニング技術を教え、一般の飼い主に向けても資格取得に向けた講座やペット防災など様々なセミナーで活躍。