嬬恋村でしか食べられない唯一無二の伝統食「嬬恋くろこ」とは?【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
知らずに食べていた伝統食「嬬恋くろこ」
<嬬恋くろこを使ったそばせんべい。祖母がよく作ってくれた>
私が生まれ育った嬬恋村には「嬬恋くろこ」というものがある。学生時代に地元を離れた私が「嬬恋くろこ」という存在を改めて知ったのは、数年前だ。「嬬恋村がテレビで紹介されるらしい」と聞き、番組を観てみるとさつま揚げのようなものが紹介されており、レポーターがほくほく顔で食べていたのだ。
「嬬恋くろこ」というのは聞き慣れないが、一体なんだろうとよくよく家族に話を聞いてみると、「おばあちゃんもよく作っていた」という。知らぬうちに私も「嬬恋くろこ」を食べていたのだ。そして、「嬬恋くろこ」は今改めて評価され、見直されている。ということで、知る人ぞ知る嬬恋のローカルフード、「嬬恋くろこ」を紹介したい。
嬬恋村は日本のジャガイモの母の里だった!?
<提供:嬬恋村役場 嬬恋村はジャガイモの一大産地だった>
まず、群馬県と長野県の県境である浅間山の北麓に位置し、平均標高1000mの嬬恋村は、現在は夏と秋に収穫されるキャベツの産地として有名だ。この記事を読んでいる方の中には、各地の名産や産業などが描かれた社会科の地図で本州の真ん中あたりにキャベツのイラストがあるのを見たことがある方もいるかもしれない。
そんなキャベツだが、嬬恋村で栽培が盛んになったのは戦後のことで、その前の主な産物はジャガイモだった。活発な火山である浅間山からの火山灰由来の酸性土壌と高い標高がジャガイモの栽培に適していたのだそうだ。
ちなみに、現在(2023年)の国内でのジャガイモの生産量は北海道が1位。実に国内生産の8割ほどが北海道産ということだが、実は北海道のジャガイモの種(種イモ)は嬬恋村から持ち込まれたとされている。ジャガイモの生産地としては嬬恋村の方が先輩、いや日本のジャガイモの母の地といってもいいかもしれない。
さて、嬬恋村に残っている記録によると、江戸時代に越後の商人がお土産として持ち込み栽培が始まったとされるジャガイモは、天保15(1844)年には盛んに栽培されていたそうで、保存が効く主食としてはもちろんだが、デンプンに加工して出荷された。その方が運搬が簡単だし、価値も高く、現金収入をもたらす貴重な作物となった。
そんなジャガイモから「嬬恋くろこ」が生まれたのは大凶作がきっかけ。なんとか飢饉を乗り越えて食い繋ぐためにデンプンを採った後のジャガイモの繊維を利用したことから始まったとされており、記録としても明治2(1869)年には「いもの絞しぼり滓かす、一切捨てず食事に用い候」と書いてある。
季節とともに作られてきた嬬恋くろこ
<作業の様子 ジャガイモを洗っているところ>
「嬬恋くろこ」の製法を簡単にまとめると、まず収穫が終わった秋にジャガイモをすりおろしてデンプンを採り、残った繊維を冬の間に屋外で保管する。

<作業の様子 すりおろしたジャガイモを洗っているところ>
雪解けの時期に約半年の間低温の中で凍結と発酵を経た繊維を水にさらしてのアクを抜き、手で絞って水分を切って自然乾燥させる。

<嬬恋くろこ 乾燥中の様子>
デンプンの出荷が行われていない現在では、地元で作られた規格外のジャガイモを利用して嬬恋くろこが作られている。
昔はデンプンを水にさらして灰汁を抜く作業は主婦たちが自宅の近くの川でやっていたそうで、作業で出る泡が30km下流の中之条まで届き、下流の人たちが不思議に思っていたそうだ。確かにデンプンを含む泡は硬く感じられた。
乾燥した嬬恋くろこは、見た目は餃子型の白い干菓子のような感じだ。食材として使うときは水を加えてペースト状にして、小麦粉やネギ、味噌などと混ぜてあげたり焼いたりして食べる。
ここまで書いてくると、冬の寒さや春の到来などともに作業が行われている様子を思い浮かべることができる。嬬恋村は、現在でも冬は昼間でも氷点下の日が続く。そんな生活に根付いて受け継がれてきたものなのだなと感じる。
焼きまんじゅうとソースカツ丼に並ぶ伝統食を未来へ!
<くろこ揚げ 嬬恋くろこに小麦粉とネギ、味噌を加えて揚げる>
「嬬恋くろこ」は他の食材と一緒に調理をすることで時に主食として、時におやつとして、空腹を満たす貴重な食材として重宝されてきた。伝統的な食べ方は、各家庭に囲炉裏があった昔は小麦粉とネギと味噌とを混ぜて焙烙(ほうろく:浅い鉄鍋)で表面を焼き、灰の中で焼いていたそうだ。
現在はフライパンやホットプレートで焼くほか、油で揚げたもの「くろこ揚げ」や、そば粉と混ぜて厚みのあるクレープのように焼いてそこにいくさ味噌(えごま味噌)をつけて食べる「そばせんべい」などとして食べられている。ちなみに、筆者は小さい頃に祖母が作ってくれたそばせんべいが、大好物だった。
そして、伝統食材を未来につなぐために、現在嬬恋村では<嬬恋くろこ保存会>が活動している。「150年以上前から嬬恋村で食べられているもので、私自身も子どもの頃から食べていました。各家庭で作られていたものなので、村の伝統としては消えかけていましたが、苦難の時期を乗り越えるために先人が編み出した知恵の結晶が嬬恋くろこです。嬬恋村でしか出会えない貴重なもの。そのおかげで群馬県では4例目となる「100年フード」に認定されました。嬬恋村のシンボルである浅間山の恩恵でジャガイモが作られていたことも含めて若い人たちに伝えていきたいです」(土屋茂次さん/嬬恋くろこ保存会副会長)とのこと。群馬名物の焼きまんじゅうやソースカツ丼につづいて、文化庁による伝統食の認定プロジェクトである「100年フード」に嬬恋くろこは認定されているのだ。

<出店の様子 くろこ揚げは子どもたちにも人気>
150年以上嬬恋村で食べられてきた嬬恋くろこ。その価値を見つめ直すため、嬬恋村くろこ保存会では、成分などの分析を進め、さらなる活用方法を模索している。また、その存在を多くの方に知ってもらおうと、レシピ付きでの販売や村内の各イベントで出店をしているそうなので、ぜひ公式サイトやXをチェックしてほしい。嬬恋村でしか食べられない、超ローカルフード「嬬恋くろこ」。どこか懐かしい素朴な味を歴史に思いを馳せながらぜひ味わってみて。
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