世界遺産の街で出会う地元の食と人|富岡「つきいちマルシェ」【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
「旧富岡倉庫」とは?世界遺産のまちで繭を守った建物の歴史
会場となっている「旧富岡倉庫」は、明治30年代に創業した富岡倉庫株式会社が建てた倉庫群です。1号・2号・3号倉庫と乾燥場の合わせて4棟からなり、それぞれ建てられた時代や造りが異なります。かつては、世界遺産・富岡製糸場ゆかりの養蚕で使われた繭や、地元でとれた穀類などを保管する場所として使われていました。

その後倉庫としての役目を終えた建物は、「歴史的建造物を活かしたまちづくり」の一環として生まれ変わりました。設計監修を手がけたのは、世界的な建築家・隈研吾氏。景観を大切に守りながら、既存の梁や壁を活かした改修が行われています。
現在、1号倉庫は群馬県立世界遺産センターとして、2号倉庫は飲食・物販店「メルシー・ココン&カフェ」として活用されています。3号倉庫は、地元の新鮮な野菜やこだわりの調味料・加工品を扱う「おかって市場」です。かつて繭を守っていた静かな倉庫は、今では多くの人が笑顔で行き交う場所へと生まれ変わりました。

<「おかって市場」が営業する3号倉庫>
月に一度のお楽しみ「つきいちマルシェ」
「つきいちマルシェ」は、地元の若手農家さんたちが野菜や加工品を直接販売する場として始まりました。生産者とお客さんが顔を合わせて話しながら買い物ができる、そんな交流の時間を大切にしているマルシェです。毎月第2日曜日に開催され、地域の人たちにとってはすっかりおなじみの行事となっています。

出店するのは、野菜を持ち寄る地元の農家さんをはじめ、パン屋さんやコーヒー屋さん、ときには地元のイタリアンのお店まで、顔ぶれはさまざまです。毎回10~15店ほどが集まり、年に2回開催される「動楽市」というクラフトイベントと同時開催になる回には、店数がぐっと増えることもあります。出店者は集客の規模よりも、人柄やコンセプトを大切に選ばれているそう。毎週のようにここへ足を運ぶという地元の常連さんの姿も見られ、買い物というより「顔を見に来る」ような雰囲気も漂っています。
野菜やお米など、群馬の土地の恵みが並ぶ
トマト農家「とまとやとまと」さんのブースでは、鮮やかな赤色のドライトマトが目を引きました。耕作放棄地で育てた野菜も並び、この日は小ぶりのナスとピーマンをいただきましたが、ナス3つとピーマン1つでなんと100円。見慣れない野菜もあり、選ぶ時間も楽しいひとときでした。

「福田農園」さんは、化学肥料・農薬を使わず稲本来の育ちを重視して育てた量り売りのお米や、有機栽培の地豆を販売。このマルシェは予約していた常連さんへ商品を手渡す場にもなっているそうで、「お客さんと直接顔を合わせて話せる良い機会」なのだそう。農薬不使用の小麦の製粉加工を手がけている「コンベ製粉所」さんも「マルシェは自分たちの取り組みを知ってもらえる場」と、出店の理由を話してくれました。

扱うものはそれぞれ違いますが、いずれも地元の土地と向き合いながら農作物を育て、加工してきた生産者たち。マルシェという場を通して、そのこだわりや想いに直接触れられるのも、この日の魅力といえそうです。
マルシェでしか味わえない一皿を楽しんで
窯焼きピッツァを販売する「イルピーノ」さんは、地元・富岡市の宮本町商店街に店を構えるイタリアンです。会場からも徒歩5分ほどの近さで、上州富岡駅からのアクセスも良い立地。姉妹店の「イルピアット」とともに、地元の人から観光客まで幅広く親しまれているお店です。普段は夜のバル営業がメインのお店ですが、この日はマルシェに出店し、いつもとは違う顔を見せてくれました。

この日カレーやお弁当を販売していた「だるまだるま」さんは、東日本大震災をきっかけに群馬県へ移住したそう。「土と向き合い、種をつなぎ、自然の恵みをそのままに」をテーマに、化学肥料・農薬を使わない自然栽培のお米や、自家栽培の古代米・原種に近い品種を使用。分づき米や酵素玄米など、体に染み渡るような滋味深い味わいを大切にしているそうです。野菜やお肉、卵なども自然栽培・自然農法にこだわっています。現在は店舗を持たずに活動しているため、こうしたマルシェへの出店が、その味に出会える貴重な機会といえます。
それぞれ違う形で、このマルシェでしか味わえない一皿を届けてくれているんですね。
コーヒーとお菓子でひと休み
コーヒーの香りと甘いお菓子で、マルシェ散策の合間にひと息つく——そんな時間も、この日の楽しみのひとつです。
お菓子を手がける「そや菓子店」さんは、伊香保温泉近くの山あいでお菓子作りを続けています。店舗は持たず、こうしたマルシェなどのイベントに合わせてお菓子を仕込み、できるだけフレッシュな状態でお客さまに届けることを大切にしているそうです。この日はチョコレートシュークリーム目当てに訪れる人が多く見られ、ほかにも華やかに飾られた焼き菓子が並び、目でも楽しませてくれました。

<ガラスケースに並ぶチョコレートシュークリーム>
「MAKAP COFFEE」さんは、榛名山麓を拠点にコーヒー豆の焙煎・販売を行うお店で、つきいちマルシェが始まった14年前からずっと出店を続けているそうです。ドリップコーヒーやカフェラテのほか、フレーバーラテやカフェインレスへの変更も選べる、幅広いお客さんが立ち寄れるラインナップ。「気張らなくて済む、ゆったりとした居心地の良さが気に入っている」と店主さん。「取材もしつつ、ゆっくりしていってくださいね」と声をかけていただき、こちらまで温かい気持ちになりました。

日曜日の朝、富岡倉庫広場にはにぎやかな声と、どこかゆったりとした時間が同居していました。世界遺産のまち・富岡で、地元の食と人に出会う時間をぜひ味わってみてください。
※この取材は2026年9月に行いました。
インフォメーション
つきいちマルシェ
住所:群馬県富岡市富岡1450(おかって市場・富岡倉庫広場)
開催日:毎月第2日曜日
開催時間:10:00〜15:00
料金:入場無料
HP:https://okatte-ichiba.stores.jp/
Instagram:@okatteichiba
望月 優衣