自然豊かな南牧村にそびえる採掘遺構|「磐戸(いわど)鉱山跡地」を探索【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

磐戸鉱山跡地

更新日: 2025年11月27日

群馬県と長野県の県境に位置する南牧村。豊かな自然に囲まれたこの地に、1993年まで稼働していた採掘遺構「磐戸(いわど)鉱山」が静かに佇んでいます。

 

巨大なホッパーホールや坑道の入口など、かつての採掘の歴史を物語る貴重な産業遺産を間近で見学できる貴重なスポットです。探索の帰りには「道の駅オアシスなんもく」で地元の恵みを味わいながら、山々に囲まれた静寂のひとときを過ごしてみませんか。

磐戸鉱山跡地が伝える南牧村の鉱山産業の歴史

磐戸鉱山の歴史

<「安全第一 磐戸鉱山」の文字が当時の雰囲気を伝えている Photo by Masaaki Muraoka

 

磐戸鉱山は、1943年に設立した青倉石灰工業株式会社(現在の有恒鉱業青倉工場)が1950年から石灰の採掘を行った場所。初期は坑内採掘(坑道を作って地下から採掘する方法)を行っていましたが、コスト面・安全面の理由から1972年以降は露天掘り(地表から鉱石を直接採掘していく方法)に転換されました。

 

<磐戸鉱山エリア内のあちらこちらに、石灰の破片が残っている Photo by Masaaki Muraoka

 

良質な石灰石が減少したため1993年に閉山し、現在、有恒鉱業青倉工場は主に秩父市・神流町で採れた石灰石を処理する施設として稼働しています。

 

今回取材に同行いただいた南牧村役場振興整備部情報観光課の朝倉早也輝(あさくら はやて)さんによれば、鉱山時代の施設が良好な保存状態で残されていること、巨大なホッパー施設に大きな文字で「安全第一 磐戸鉱山」の表記がそのまま残っていることの2点で、磐戸鉱山は全国的にも非常に珍しい採掘遺構なのだそうです。

 

<南牧村役場の職員であり、磐戸鉱山の観光地化に力を入れている朝倉早也輝さん Photo by Masaaki Muraoka

磐戸鉱山の顔!巨大なホッパーホールがある「ホッパー跡地」

ホッパー跡地

<朝倉さんからホッパーホールの説明を受ける Photo by Masaaki Muraoka

 

磐戸鉱山跡地のシンボルとも言えるのが、2つの巨大なホッパーホールです。ホッパーとは、採掘した鉱物などを上から投入し、下の排出部からトラックへ積み込むための設備。

 

磐戸鉱山では、「安全第一 磐戸鉱山」と書かれた貯鉱槽(採掘した石灰を貯めておく部分)から、ホッパーホールの中に停車したトラックに石灰を積み込むための施設として使用されていました。

 

Photo by Masaaki Muraoka

 

注目してほしいのは、ホール内に前後2つのホッパーが備わっていること。これにより、トラックが前後どちらの向きで停車しても石灰を積めたそうです。目の前の空き地に車やバイクを停めて、ぜひ間近で見学してみてください。

※ホッパーホールの内部は立ち入り禁止です。必ずチェーンの外側から見学してください。

 

左手の壁面には3つのサブのホッパーも確認でき、当時の本格的な操業の様子がうかがえます。

 

<ホッパーホール左手の壁面に並ぶ3つのホッパー Photo by Masaaki Muraoka

 

この壮大な施設に、車やバイクで気軽にアクセスできるのも磐戸鉱山の大きな魅力。実際に、取材中もツーリングのバイクを複数台見かけました。

 

ホッパー跡地周辺は春には桜が咲き、秋は紅葉も楽しめます。どの季節に訪れても、壮大な廃墟と周囲の豊かな自然との美しいコントラストに出会えるはずです。

 

<今回の取材はちょうど彼岸花の季節 Photo by Masaaki Muraoka

時が止まったような鉱山施設群と露天掘り跡地

鉱山施設群

<鉱山事務所の隣にはトラックの給油所も Photo by Masaaki Muraoka

 

ホッパー跡地から続く坂を上った先には、大きなタンクや鉱山事務所、給油所といった当時の施設群が残されています。

現在、ホッパー跡地より先のチェーン規制箇所から先は、全エリアが立ち入り禁止となっています。今回は特別な許可を得て撮影しています。

 

<給油設備もそのまま残されている Photo by Masaaki Muraoka

 

特に、石灰を運んでいたベルトコンベア付近からの眺望は圧巻でした。

 

Photo by Masaaki Muraoka

 

緑鮮やかな山々と磐戸鉱山の施設群、かつて石灰を運んだトラックが通った曲がりくねった道、遠くの小さな集落まで一望できます。

 

どこを切り取っても美しい景色が何層にも重なる絶景ポイントで、何時間でも眺めていたくなります。

 

<施設から施設へと、ベルトコンベアで石灰が運ばれていた Photo by Masaaki Muraoka

 

Photo by Masaaki Muraoka

 

鉱山事務所付近には、最後に使用した時間を示したままの発破時間の表示板も保存されており、まさに時が止まったような光景を見ることができました。

 

<「発破」とは、ダイナマイトなどを利用して岩盤を破砕すること Photo by Masaaki Muraoka

 

さらに上へ登ると、実際に露天掘りが行われていた採掘場に到着します。露天堀りを行っていた当時は地面にぽっかりと穴が空いていたそうですが、現在は南牧村と上野村にまたがる「湯の沢トンネル」建設時の土で平らに埋め立てられています。

 

ベンチカット方式によって階段状に削られた岩肌だけが、当時の採掘の様子を伝えていました。

露天掘り採掘場は立ち入り禁止です。今回は特別な許可を得て撮影しています。

 

Photo by Masaaki Muraoka

【番外編】特別見学!「12号坑口」内部の神秘的な“地底湖”

12号坑口

<坑口からは常時冷気が噴き出ている Photo by Masaaki Muraoka

 

磐戸鉱山跡地のもう一つの見どころは、ホッパー跡地から500mほど手前のところにある「12号坑口」です。

※12号坑口は通常は立ち入り禁止です。安全のため、鉄柵の外側から見学してください。

 

坑口とは坑道(採掘するために地下に掘られた通路)の入口のことで、磐戸鉱山が坑内採掘を行っていた時代に使用されたほか、露天掘りに転換したあとも石灰の水洗施設・貯鉱施設、鉱石運搬のトンネルとして使用されました。

 

坑道内は年間を通して15℃前後に保たれているそうで、坑口に近づくだけで強烈な冷気を感じます。

 

通常は安全のため立ち入り禁止の12号坑口ですが、今回は個人的な活動でも廃鉱山の調査を行っている朝倉さんのガイドで、特別に内部を見学させていただきました。

 

<ホッパーの上部にも坑道があり、そこで採掘を行っていた Photo by Masaaki Muraoka

 

内部には一定間隔にシュートが設置され、ここで石灰をトラックに積んで運搬していたそうです。トラックが往復できるよう、ところどころに待避所もあります。

 

<実際は足元もよく見えないほど暗い Photo by Masaaki Muraoka

 

Photo by Masaaki Muraoka

 

アーチ型の支保坑が続く坑道は、まるで地下に眠る古代遺跡のよう。壁面には発破用のダイナマイトを埋め込んだ穴も生々しく残されています。

 

<このような穴の中にダイナマイトを入れて発破を行ったそう Photo by Masaaki Muraoka

 

さらに奥に進むと、朝倉さんがその美しさから地底湖と呼んでいる、澄んだ青い水をたたえた排水用の坑道が。長い年月かけて鉱山から染み出した水分が溜まって、現在の状態になったようです。

 

<海外の洞窟のような雰囲気 Photo by Masaaki Muraoka

 

坑道の奥行きが深いために写真では確認できませんが、はるか奥の水面にはうっすらと手押しトロッコらしき四角い影も浮かんでいました。

 

朝倉さんは、この全国的にも珍しい大規模な坑道跡で、将来は見学ツアーの開催も目指しているそう。暗い坑道の中を歩いて地底湖を目指すのは少し勇気が必要ですが、ゴールにこんな神秘的な景色が待っていると思うと、ワクワクしてくるのではないでしょうか。

 

<坑道内は水分が多く、靴の裏に石灰が Photo by Masaaki Muraoka

 

ちなみに、今回探検した12号坑口以外にも11号坑口など複数の坑口の存在が確認されているそう。また、「11号」「12号」は「11」「12」などの連番である可能性があるそうで、今となっては真実は分からないようです。

探索帰りには「道の駅オアシスなんもく」でゆったりひと休み

道の駅オアシスなんもく

Photo by Masaaki Muraoka

 

磐戸鉱山跡地での探索を終えたら、車で約8分の「道の駅オアシスなんもく」に立ち寄ってみてください。すぐそばを流れる南牧川と美しい山並みを臨むテラス席でカレーやラーメンが味わえ、探索で疲れた体を癒してくれます。

 

Photo by Masaaki Muraoka

 

<カレーライス(800円)※サラダは別 Photo by Masaaki Muraoka

 

<最近メニューに加わったというパスタメニュー「海鮮トマトスープ(1,200円)」※サラダは別 Photo by Masaaki Muraoka

 

地元生産者が丹精込めて育てた新鮮な野菜や果物が並びます。物産コーナーでは村の特産品も購入でき、探索の思い出とともにお土産も手に入れることができます。

 

3つの業者が持ち込んでいるパンも人気 Photo by Masaaki Muraoka

 

川のせせらぎを聞きながらゆっくり過ごす時間は、都市部では味わえない贅沢。道の駅オアシスなんもくは、一人旅でも仲間との旅でも、それぞれのペースで南牧村の魅力を満喫できる場所です。

 

<川辺にせり出すように建つ「道の駅オアシスなんもく」 Photo by Masaaki Muraoka

 

産業遺産としての価値と、自然の美しさが共存する磐戸鉱山跡地。かつてこの地で働いた人々の営みに思いを馳せながら、南牧村の知られざる歴史に触れる貴重な体験でした。

 

各スポットをアクティブに巡るもよし、ゆっくりと写真撮影を楽しむもよし。都市部の喧騒を離れて静かな山里で過ごす時間は、きっと心に残る特別なひとときになることでしょう。

インフォメーション

磐戸鉱山跡地

 

住所:群馬県甘楽郡南牧村小沢

※立入禁止エリア(チェーン規制)までは車両での移動が可能です。安全な場所から見学してください。

HP:https://nanmoku.ne.jp/kanko/nanmokukanko/

お問い合わせ:0274-87-2011(南牧村情報観光課 朝倉まで)

 

 

道の駅オアシスなんもく

 

住所:群馬県甘楽郡南牧村千原3-1

電話:0274-87-3350

営業時間:9:00〜17:00(レストラン9:30〜16:30)

定休日:火曜日

SNS@oasis_nanmoku

 

望月優衣

望月優衣

渋川市出身・高崎市在住のフリーライター。群馬県内の取材・インタビューを中心に、文章を仕事に楽しく生活しています。趣味は街歩きや美術館めぐり、ノープランの旅行です。