みなかみの森に育まれたクラフトビール醸造所「オクトワンブルーイング」を訪ねる 【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

「The みなかみ」と呼べるビールがここにある
<新たな醸造所にて竹内さんご夫妻>
「オクトワンブルーイング」は2018年4月にみなかみ町で営業を始めた小規模なブルワリーです。ブルワーである竹内康晴さんご夫妻が「The みなかみ」と呼べる、こだわりのビールを手造りしています。みなかみ町の温泉街にあるタップルームは落ち着いた雰囲気で新鮮なビールを楽しめます。また、ビールはボトルや缶での販売だけでなく、グラウラーなどの持ち込み容器での量り売りにも対応しています。タップルームに隣接する醸造所の他に、2025年5月には同町の名胡桃城址近くに「オクトワンブルーイング名胡桃醸造所」を新設しました。
<みなかみ町の温泉街にあるタップルーム 写真提供:オクトワンブルーイング>
<木をふんだんに使ったタップルーム 写真提供:オクトワンブルーイング>
ビール造りへのこだわり
<エグ味をコントロールするために工夫を凝らした醸造設備>
竹内康晴さんはビールの飲みづらさの原因は「苦味」ではなく、「エグ味」と考えています。新設した名胡桃醸造所ではエグ味を出さないようにポリフェノール、タンニンを管理しようと考え、醸造設備をカスタマイズしています。
醸造に用いる水は谷川岳の地下水由来の水道水を使用しています。ホップは2020年から自家栽培を始め、現状では全使用量の5%に留まっていますが、人手があれば15%まで増やしたいと考えているそうです。麦汁の発酵に用いる酵母菌は群馬産業技術センターで保管・管理してもらい、品質の維持が容易になったそうです。副原料は麹や柚子の皮などを用いて、ビールに特徴を与えています。
また、自然への負荷を考慮し、名胡桃醸造所ではビール製造において使用するガスを電気に切り替えています。それに伴い、ソーラーパネルによる発電や再生可能エネルギー由来の電力を利用することにしています。
クラフトビール:自然を知ってもらいたい
<こだわりの詰まったビールを手にする竹内康晴さん>
現在「オクトワンブルーイング」では主に6種類のビールを製造しています。当醸造所のフラッグシップであり、クセのない飲みやすさが特徴の「オクトネ・エール」、International Beer Cup 2024のClassic Saison部門で金賞を受賞した「カヤバ・セゾン」、そして自家栽培ホップを使った「リバー・ネイバー IPA」などです。今までは瓶ビールが主流でしたが、2025年7月からは軽く扱いやすい缶ビールも販売を始めました。この缶ビールのラベルアートにはみなかみ町のアーティストによる作品を採用しています。
<「オクトワンブルーイング」を代表する「オクトネ・エール」 写真提供:オクトワンブルーイング>
<金賞を受けた「カヤバ・セゾン」 写真提供:オクトワンブルーイング(撮影:夏目 啓一郎)>
<自家栽培のホップと「リバー・ネイバーIPA」>
ハードサイダー:地元のリンゴに付加価値を
<ハードサイダーの原料となる地元産のリンゴ 写真提供:オクトワンブルーイング>
みなかみ町はリンゴの産地であります。地元産のリンゴに加工という付加価値をつけ、ハードサイダー(シードル)として販売しています。国内で生産されたハードサイダーの多くは「ふじ」などの生食用リンゴを原料としていますが、竹内さんは特徴が乏しいと考えていました。そこで、アクセントとなるリンゴを探していた際に同町の上牧にあるリンゴ園で酸味のある加工用品種「グラニースミス」と出会い、その畑を借り受けることになりました。初めて収穫した「グラニースミス」をみなかみ町産の「ふじ」と合わせて試作したハードサイダー1000Lを見事に完売しました。2025年には「ふじ」10tと「グラニースミス」2tを使用したハードサイダーを7月から販売しています。瓶に貼るラベルはミュージシャン友川カズキ氏による書き下ろしで、水に浸すと簡単に剥がすことができるので分別が容易になっています。今後は醸造用品種のリンゴ「ビターアップル」を使用したハードサイダーを作ってみたいそうです。
<ハードサイダー 写真提供:オクトワンブルーイング>
Enjoy Nature Smile Back
<醸造は自然の一部 写真提供:オクトワンブルーイング>
竹内さんは、みなかみ町は自然豊かですが、お客様が自然の中に遊びに来るだけでなく、自然について考えて欲しいと話します。そこで、ビールの原料となるホップやハードサイダーの原料となるりんごを収穫する収穫体験会などを開いて、お客様が自然と触れ合う機会を作っています。
醸造は農業、さらには自然の一部であり、みなかみ町の森林がなくては醸造も成立しないという考えから、みなかみ町の国有林「赤谷の森」の生物多様性の復元と持続的な地域づくりを推進する「赤谷プロジェクト」があり、当醸造所では売り上げの1%をこのプロジェクトに寄付しています。
<ホップの収穫作業 写真提供:オクトワンブルーイング>
「オクトワンブルーイング」は、ビール造りへのこだわりだけでなく、その背景にあるみなかみの環境保全にも活動の場を広げています。単にビールを味わうだけではもったいない—その一杯を楽しみながら、みなかみ町の自然に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
インフォメーション
オクトワンブルーイング
住所:群馬県みなかみ町湯原702-2
電話:0278-25-4520
営業時間:平日16:00〜20:00、土日祝日14:00~20:00
定休日:火・水曜日
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福田 靖