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ものづくりのまち“桐生”で、人の手の仕事にふれる旅を【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

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更新日: 2024年04月02日

群馬県の魅力をぐんま観光県民ライター(ぐん記者)がお伝えします!

「桐生は日本の機どころ」と詠われた群馬県桐生市。
当地での織物の発祥は1300年以上前にさかのぼると言われています。
先人たちの営みが残した財産は目に見えるモノだけではありません。
長年をかけて土着した“ものづくりのDNA”とも言える、不思議な空気が漂う街、桐生のものづくりの今を感じにでかけてみませんか?

1300年の時間が織りなす、織都“桐生”の今を見に行こう

奈良時代に朝廷に絹を献上した記録があり、関ヶ原の戦いでは徳川家康に軍旗を納めるなど、桐生の歴史は織物の話し抜きには語れません。祖父が小さな織物工場を営んでいた私にとってもそれは原風景のひとつ。「ガチャン ガチャン」と機織りの音がけたたましく鳴り響く工場で、祖父を探し大声で叫んだおぼろげな記憶。石を投げれば繊維産業関係者に当たりそうなほど、ほんの50年前までは街のあちらこちらから機を織る音が聞こえていました。現在では祖父の工場も消え、まちから聞こえる機織りの音はすっかり少なくなりました。栄枯盛衰、盛者必衰、ものづくりへの情熱が沸騰した街も、いまは昔。シャッターの目立つ商店街は、マスメディアの言う“失われた30年”を体現する地方都市のように見えるかもしれません。

桐生のものづくりスポット/ハンドル刺繍のHANDLER Inc.

ものづくりのまち“桐生”に息づくクリエイターのDNA

見た目は元気を失ってしまったように見える桐生ですが、「テーマパークのようにワクワクする街」と評した知人もいます。大正から昭和にかけては輸出業も盛んで、世界に向けて“KIRYU”の名を轟かせた時期もあります。斜陽産業とはいえ、織り・染め・編み・刺繍・縫製などの機械と技術が幅広く残る繊維産地は全国でも稀有。その価値を知る人にとっては、まさに夢の国にもなるのだと知りました。しかし現実は、失われた30年の時間とともに、深い霧のなかにいるような地場産業。ところが最近のまちを見渡すと、そのモヤが晴れてきたように感じます。1300年、創り続けてきた街のインスピレーションに呼応するように、多くの作り手とその物語が輝きはじめています。シャッターばかりの商店街には、少しずつアトリエ・ショップの明かりが灯りはじめています。そのまちの物語を辿るように、作る人の手の温度を感じる3つの工房&ショップを巡ってみましょう。

桐生のものづくりスポット/オリジナルの帽子ブランドusine.

ハンドルとペダルを操り、針と糸で自在に絵を描く刺繍職人

まず一カ箇所目にご紹介するのは、織物の歴史資料が並ぶ桐生織物記念館からほど近く、末広通りにあるHANDLER Inc.(ハンドラー)。オーナーで刺繍職人の中島さんが2021年にオープンした創作スタジオです。現代において刺繍といえば、コンピュータ刺繍が主流ですが、ハンドラーの刺繍はその名の通りハンドルとペダルの操作を巧みに組み合わせる特殊なミシンを使った刺繍。野球のスタジアムジャンバー(スタジャン)のモコモコとしたワッペンでもお馴染みの風合いも得意とするミシンです。「できるだけ多くの人にハンドル刺繍ミシンを知ってほしい」という想いから、訪れたゲストの質問にも丁寧に答えてくれる中島さん。そればかりか、タイミングが良ければリクエストに応じた図柄を刺繍してくれることも…(ときどきそのサービス量が心配になります笑)。いまや衰退しきってしまったハンドル刺繍ミシンを後世に残すため。いつかはハンドル刺繍を広めるためのスクールの構想もあるそうで、店内に並ぶレトロなミシンたちも見どころです。

運が良いと即興で希望のモチーフを刺繍してくれるかも…

スポーツチームのワッペンなど、多くの仕事を手掛ける

いつも訪れる人をあたたかく迎えてくれるHANDLERの中島さん

まるで博物館のようなアンティークミシンのコレクション

手仕事による風合いで多くのファンを惹きつける帽子ブランド

次にご紹介するのは、本町2丁目のレトロな街なみが残る本町通り沿い、帽子ブランドusine(ユージーン)を展開するcom+position(コンポジション)です。オーナーは、縫製の仕事を通して長年にわたりアパレルブランドと産地つなぐ役割を担ってきた斉藤さん。縫製業界をはじめ、桐生産地の内情も詳しく知る斉藤さんは、同じものづくり仲間からの信頼も絶大、加工の外注先探しなどの相談にものってくれる心強い存在です。2016年からスタートして独自の帽子ブランドを展開、麦わら帽子とフェルト帽子を中心に、カジュアルなデザインから洗練された逸品まで、古民家を改装した店内にはさまざまな帽子が並びます。本町通りからも気軽に入りやすいので、ぜひ覗いてみてほしいお店です。

帽子職人の神山さん。本町通りからも見える創作風景はもはやおなじみ

桐生のさまざまな繊維事業者との強いつながりをもつオーナーの斉藤さん

フェルトの帽子や麦わら帽子など、季節に応じて品揃えが変わる店内

購入した帽子はいつでも無料でメンテナンスしてもらえるので安心

伝統と革新を織り交ぜ、新しい価値を生み出す織物工場

最後にご紹介する井清織物/OLN(オルン)です。夫の義浩さんが織物の家業に入ったのが2005年。妻の忍さんと2014年に自社ブランドOLNを立ち上げ、2018年にショップをオープンしました。いまでこそ、多くの着物店がOLNの帯を取り扱い、全国にファンがいるブランドとなりましたが、自社ブランドの立ち上げはまったくのゼロからのスタート。本流ともいえる帯地で評価される品質を満たすまでには並々ならぬ努力があったことを知っています。最近は、ショップを訪れるお客様(特に外国のお客様)からは「どれくらい歴史があるの?」「どんな染め方をしているの?」と、OLNの物語を紐解くような質問が増えたと言います。商品の“機能”ではなく“意味”を求める人にとって、OLNの生み出す商品はとても輝いて見えるのでしょう。

旧式のジャガード式シャトル織機を使ってゆっくり織りあげていく

二人三脚という言葉が似合う井上夫妻、長年かけてOLNを磨き上げた

織物工場のすぐ横にあるショップ、遠方からのお客さまも多い

オリジナルの和雑貨も揃う店内、地元らしいお土産を探したい人にもおすすめ

ものづくりの新しいインスピレーションが渦巻く桐生の可能性

伝統産業や手工芸という言葉にしてしまうと、どこか古臭く、難しいイメージを抱いてしまいがちな“ものづくり”の話。一方で、情報産業の発展と反比例するように、AIでも生成できない「歴史」 「文化」などの、「本物」の価値がいっそう増しているように感じます。人の手を通してつくられた製品の総体的な価値が増している今だからこそ、感じておくべきフィーリングが今の桐生にはあります。まずは織物の歴史から勉強してみたいという方には、JR桐生駅からもほど近い桐生織物記念館がおすすめ。2Fの資料室に加えて、1Fのお土産売り場ではお得な織物製品を手に入れることができます。

織物産業で栄えた街の面影を残す本町通り、観光街歩きのための歩道を整備中(2024年3月現在)

桐生市の織物を知るにはこちらがおすすめ。産地価格のお得な繊維産品も販売中

まとめ

今回は、本物志向な桐生のものづくりの職人&ブランド3つをご紹介しました。すべてのショップやスタジオが2015年以降のオープンの新しいスポットです。現在も桐生のものづくりカルチャーはつねに変化を続けています。ぜひその熱を現地で感じてみてください。

インフォーメーション

HANDLER Inc.

住所:群馬県桐生市末広町1-15

営業時間:11:00-19:00

定休日:不定休

詳しくはお店のインスタグラム(@handler_inc)等をご確認ください。

 

usine /com+position

住所:群馬県桐生市本町2丁目3-1

営業時間:10:00-19:00

定休日:水曜日

詳しくはお店のインスタグラム(@composition_usine)等をご確認ください。

 

OLN shop/井清織物

住所:群馬県桐生市境野町6丁目344

営業時間:13:00-17:00

営業日:平日および毎月第一・第三土曜日

詳しくはお店のインスタグラム(@oln_sino)等をご確認ください。

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星野智昭

2016年、桐生市へUターン移住。濃密な歴史・文化残るまちの観光に課題と可能性を感じ、2023年まちなかの宿Dive INN Kiryuをオープン。広告・デザイン制作で培った視点で、まちの魅力の再解釈に取り組んでいる。