利根沼田で伝統工芸品を知る。【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
指物だけに限定せず、枠にとらわれず、広く木工芸品を作る。
吉澤指物店では、指物、すなわち、クギを使わず、木を組み合わせて作製する木工芸品を主に扱っていたが、現在では、指物に限定せず、幅広く木工品を作製している。材料は、利根沼田に自生する、ミズナラ、クリ、トチなどを用いて、作品は、普段使いの箸やカップなどの「器」から、テーブル、さらには照明器具や室内装飾に使用するアートパネルなど多岐にわたる。また、今では失われてしまった「藤原盆」などの復活にも注力している。海外への進出も積極的で、英仏伊のレストランで氏の器が料理の美しさを引き立たてている。
自分しか作れない、比べられない物を作る。
吉澤 良一 氏は、沼田市戸神町に工房を構え、 42年に渡り木工芸に打ち込んでいる。
氏は、高校を卒業後、指物工芸師の父を師として、指物の道へ進んでいった。しかし、美しい作品を作る父を認めながらも、それだけで良いのか?という疑問が、心の底にあったという。氏を変えたのは東日本大震災であった。自身より若い世代が、震災からの復興の先頭に立つ姿を見て、刺激を受けたという。現在、氏は、若い時に強く影響を受けた欧米のデザインと伝統である和のデザインとの括りにとらわれず、洋と和の間を自由に行き来したい、そう考えている。
使いやすい作業場から作品は生まれる
作業場を拝見した。洗練された作品から想像されるような、整然とした空間ではない。一目見ただけでは、道具がゴチャゴチャと置かれた雑然な空間に見えた。しかし、決められた物が決められた場所にある。作業場は、誰かに見せる場所ではない。使い勝手を優先した、まさにモノを作る現場とわかった。ここで、一つの家具に目が留まった。修復を待っているキャビネットだという。オーナーが、吉澤氏に全てを一任して、修復を依頼しているものだそう。私は、このキャビネットが、氏の手により、どのような姿に生まれ変わるのだろうか?きっとオーナーも満足する、素晴らしいものになるに違いないと感じた。
顔が見える販売を
吉澤指物店の木工品は、ショールームで販売している。また、例年秋に中之条町の旧酒蔵を利用したイベント「秋、酒蔵にて」でも、購入できる。だが、通信販売はやっていない。これは、現物を確認して、その価値を認めた上で、購入してもらいたいという氏の願いである。
タンスやテーブルなどは受注生産であり、生産自体は1カ月程度ということだが、デザインや仕様を氏と相談した後の製作となることから、納期なども含めて問い合わせてもらいたい。
他にもある、利根沼田の伝統工芸
吉澤指物店以外も、利根沼田には多くの伝統工芸品が製作されている。
群馬県のウェブ「ぐんまの伝統工芸」から、利根沼田地域のものを抜き出すだけでも、下のようなものがある。ブレスレットなどで見直される「沼田の組紐」、木目の色艶が美しく変化していく「沼田桑細工」、軽くサラッとした履き心地の「沼田桐下駄」、焦がし杉の木目が美しい「沼田うきもく」、厳選素材を手作業で作製した「沼田碁器」、こだわりの桐材を用いた「月夜野桐箪笥」、地元の素材に職人の技を駆使した「三国指物」、地元の材料を丹念に編み上げた「利根沼田樹皮細工」、水切れの良さから見直されている「根利スズしょうぎ」、天狗の迦葉山参りに欠かせない「迦葉山天狗面」、柔らかな穂先で想像以上の掃き心地の「利根沼田の座敷箒」、全てを手作業で作製する「上州尺八」、などである。興味があれば問い合わせてほしい。
https://www.pref.gunma.jp/site/kougei/131183.html
画像:利根沼田振興局ショーケース(福田の撮影)
まとめ
今回、吉澤指物店で話を伺い、感じたのは「スゴいぞ!伝統工芸」であった。
今後、どれだけの伝統工芸が未来に引き継がれていくのか確かなことはわからない。しかし、まだ残っている今だからこそ、伝統工芸品を見て、触れて、知ってもらいたい。そして、これらの伝統工芸が、次の世代に受け継がれ、さらに発展していってもらいたい。そう思った。
インフォーメーション
吉澤指物店
住所/群馬県沼田市戸神町848-1
ホームページ https://sashiyoshi.com
インスタグラム https://www.instagram.com/yoshizawa_sashimonoten/
メールアドレス sashiyoshi1920@gmail.com
電話/090-3436-8607
営業時間/9:00〜17:00
定休日/月曜日
カップ/ 6,000円
箸/3,000円
福田 靖