養蚕と鉄道の記憶をたどる旅~六合・赤岩と旧太子駅をめぐって~【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

旧太子駅

更新日: 2025年11月21日

「日本の原風景」&「古代ローマの遺跡?」を見に行こう。群馬県の北西部、長野県に接した中之条町六合エリア。この地には、群馬県内で初めて国の重要伝統的建造物保存地区に選定された「六合赤岩地区」があります。また、日本遺産「かかあ天下―ぐんまの絹遺産―」の構成文化財にも認定。白砂川の対岸にはトンネル・復元駅舎・発掘のホッパー棟などの鉄道遺産も点在しています。中でも「旧太子(おおし)駅ホッパー棟」は国の登録有形文化財。赤岩養蚕農家群は地域住民が守り伝える絹の文化を今に伝えています。「鉄」と「絹」を繋いだ産業の遺構を体感して、当時に思いを馳せてはいかがでしょうか。草津温泉・四万温泉・沢渡温泉からのアクセスも良く、旅の立ち寄りにもおすすめです。

養蚕の記憶を残す「六合赤岩養蚕農家群」へ

赤岩の春

「日本の原風景」赤岩養蚕農家群・お蚕の里の春(2025/04撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

関越自動車道・練馬ICから約2時間20分、渋川伊香保ICから約1時間20分、電車の場合は、上野駅から直通の「特急 草津・四万号」で約2時間30分、長野原草津口駅下車、タクシーで約15分、バスは本数が少ない。国道292号線を白砂川に沿って野反湖方面へ向かうと、「赤岩集落」「長英隠れ里」の標識を右折し、橋を渡ると「六合赤岩養蚕農家群・お蚕さんの里」のプレートがお出迎え。「赤岩ふれあいの家」に駐車し地元の物産コーナーに併設する観光案内所で赤岩散策マップが手に入るので、手に入れてから出発しましょう。

 

わかりやすい赤岩散策マップ(2025/11撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

コスモス咲く赤岩集落 向城の観音堂より(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

白い花咲くそば畑 実りの秋 赤岩集落(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

赤岩地区で最も大きな総3階建ての養蚕農家を訪ねた。集落の中央部に位置。家主の関駒三郎氏にご案内していただいた。幕末から明治に建てられた主屋は、2階・3階が間仕切りのない1室空間で養蚕の部屋。床板は換気や下の階の囲炉裏の煙を逃がす為、板が外れるよう工夫されています。格子状の板も1本ずつ取り外しが可能で温度・湿度を調整でき、各階に養蚕用具とわら細工がありました。屋根裏でも養蚕が行われていたのでしょうか?家主 関駒三郎氏は「お蚕のためにつくった家。お蚕が好きな材料で養蚕道具を作った」「大きな屋根だからね、軒が広くて、雨の日も作業ができた。台風が来ても丈夫なつくり」「お蚕が大きくなると桑の葉をいっぱい食べる。雨上がりに取ってきた桑の葉を手すりに広げて、露を落としてからお蚕にくれた」と昔を懐かしむように振り返ります。その掌の厚みが長年の労を物語っていました。家主の掌の厚みがとても印象的だった。

 

養蚕農家の特徴的つくり 「デバリ」と「セガイ」がある関家(2025/08撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

関家 養蚕をしていた部屋(2025/08撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

赤岩湯本家住宅(3階は養蚕のため増築・蘭学者 高野長英をかくまったとされる「長英の間」という部屋がある(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

養蚕から絹産業の歴史をたどる関連施設へ

かいこの家

かいこの家の製糸用具(2025/08撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

「関家」を後に、次に訪れた「かいこの家」は、2006年に主屋の2階を改装し開館しており、地区内に残る養蚕・製糸用具を展示されています。間仕切りのない1室空間で、往時の作業風景を想像できます。赤岩地区では、ほとんどの家が養蚕業を営み、繭の出荷先は主に中之条町の光山社だったそうです。「かいこの家」を後に、稚蚕飼育所へ行くと、元気の良いご婦人たちの声が聞こえてきました。お話を伺うと「赤岩絹糸の会」の方々で後世に養蚕文化を伝える活動も行っています。

 

お蚕さんのランチタイム(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

取材時には、稚蚕飼育所で桑の葉を食べるお蚕の「ザーザー」という音が聞こえ、まるで雨のようでした。「1500頭いるよ。今日はおとなしい方だね。もうすぐ繭をつくる頃だよ」と笑顔で話す姿に、地域の温かさがにじみます。

 

「ふれあいの家」で買い物。本当は秘密にしておきたいけど、新鮮野菜を安価で購入できます。(2025/08撮影)photo by Yasushi Ishikawa

鉄と絹を繋いだ産業の遺構「旧群馬鉄山太子駅」へ

ホッパーと貨車

旧太子駅 土に埋もれていたホッパー棟(2025/10撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

赤岩地区の見学を終え、「赤岩ふれあいの家」の駐車場から車で約3分の場所にある旧群馬鉄山太子(おおし)駅へ。かつて太子駅から約8㎞離れた群馬鉄山(現チャツボミゴケ公園付近)から、空中ケーブルで鉄鉱石が運ばれ、貨車で長野原駅(長野原草津口駅)、渋川駅や川崎駅へ輸送されていました。戦後は日本の復興に貢献。昭和20年(1945年)に開業、昭和29年には旅客営業も開始しましたが、昭和41年には鉄山が閉山、昭和46年に太子線は廃止されました。ホッパーは3階建て構造で、1階が積み込み場、2階が貯蔵場、3階が空中ケーブルの発着場。「当時、駅前に旅館や商店が並び、賑やかだった」と地元の方は懐かしみます。

 

旧国鉄吾妻線太子線のトンネル(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa車も通行可能 思わず「ヤッホー」と叫んだ

今、地域に息づく“暮らしと文化”

焼き肉

赤岩ふれあい感謝祭 おいしい焼き肉に舌鼓(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

毎年9月に開催される「赤岩ふれあい感謝祭」は地元住民と来場者が交流するイベント。焼き肉・焼きとうもろこし・そばが無料提供に加え、養蚕体験、組み紐づくり、座繰り実演、昔話の語り部、集落ガイドなど、多彩な催しが行われます。また、この日は2年に一度の「中之条ビエンナーレ(国際現代芸術祭)」の開催時期でもあり、赤岩・太子駅も展示場所になります。養蚕や鉄道の歴史をテーマにしたアート作品が展示され、地域の文化や自然と現代芸術が融合した空間を体感できます。次に中之条町内全域が1ヶ月間美術館になるのは2年後。「養蚕と鉄道の記憶」を「現代アート」をプラスして旅するのもいい。

 

繭玉の向こう側に越し屋根の養蚕農家(2025/09/13撮影)photo by Yasushi Ishikawa

作者名:木方彩乃「蝶籠羽化穴」(ちょっとこもろうかな?)

 

作品のまゆ穴

ひと一人が入れる大きさのまゆ穴に入ってみました。入ってみると「まゆの中ってこんな感じかな」とお蚕さんの気持ちが体感できます。「たくさんの発見があってね、蝶々がパタパタと力強く羽ばたいていたのには驚いた。」と作家はお蚕の飼育体験を笑顔で振り返った。

おすすめの立ち寄りスポット

寅さんのバス停

寅さんのバス停(2025/08撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

旧太子駅から、車で約7分、寅さんのバス停へ。映画「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」のエンディングシーンで使われた場所です。国道405号線梨木バス停横に駐車し、案内板を見ながら徒歩15分の散策を楽しめます。また、「赤岩ふれあいの家」では、5月から10月の土曜日限定で手打ちの赤岩そばを提供。地元野菜の天ぷらが付いた天ぷらそば(600)は絶品です。

 

赤岩「ふれあいの家」5月から10月の土曜日限定で美味しい赤岩そばが食べられる。(2025/09撮影)photo by Yasushi Ishikawa

 

かつて「六合は何もない」と言われた時代がありました。しかし、取材で出会った人々は皆、地域への誇りと愛情にあふれていました。豊かな自然、人情味ある人々、道祖神や野仏、温泉、そして、現代アート。「何もない」どころか、見どころが尽きない六合エリア。桜、新緑、秋の紅葉、冬の雪景色。四季折々の表情を見せるこの地で、「養蚕と鉄道の記憶をたどる旅」に出かけてみませんか。

 

インフォメーション

中之条町観光協会

 

電話:0279-75-8814 

住所:群馬県中之条町大字中之条町938(ふるさと交流センターつむじ内)

 

HP:https://www.nakanojo-kanko.jp/

 

 

中之条町六合振興課

 

電話:0279-95-3111(代表) 

住所:群馬県吾妻郡中之条町大字小雨577-1(中之条町役場 六合支所内)

取材協力:赤岩ふれあいの家

電話:0279-95-3008

営業時間:9:00~16:00 

定休日:木曜日

 

えんとつちゃん様

えんとつちゃん

群馬県出身 今まで鹿児島県、宮城県、山梨県と住む。やっぱり群馬が好きで帰郷。 群馬県の宝物を世界に自慢したくて、2004年8月に富岡製糸場世界遺産伝道師となる。趣味は写真(テーマ:四万ブルー・蚕神)ぐんま応援人マスター アート鑑賞 カヌー