犬が感じる「ストレス」、そのサインや対処、解消法とは

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更新日: 2025年03月31日

長時間の移動やはじめての地など、犬にとっての旅行はちょっぴりドキドキ。刺激も多く、ときにはストレスを感じてしまうこともあるかもしれません。
でもせっかくの愛犬との旅、お互いにとって最高の思い出にしたいものですよね。
まずは飼い主さんが“愛犬にとっての”ストレスを知っておくことが大切です。この記事では、そもそもストレスとは何か、それにどう気づき、どう解消したらいいのかなど、犬のストレスについて深堀りしていきます。

「ストレス」って何?

耳慣れた言葉ですが、「ストレス」とは何か、簡単に説明しておきましょう。

「ストレス」とは、外部から何らかの刺激を受けて心身に生じた反応のこと。

本来、人間や犬には多少ストレスを受けたとしても体を平常な状態に保とうとするシステムが備わっています。
しかし、このバランスが崩れると心身にいろいろな不調が出てきます。

ストレスの要因になるもの、ストレスの感じ方は犬それぞれ

ストレスの要因になるものは、一般的には4つに分けられています。

    1. 物理的ストレス要因 ⇒暑さや寒さ、気圧の変化、騒音など
    2. 化学的ストレス要因 ⇒薬物、有害物質、酸素不足など
    3. 生理的ストレス要因 ⇒細菌やウイルスの感染、炎症など
    4. 心理的・社会的ストレス要因 ⇒他者との関係や物事から生じる葛藤、不安、恐怖、不満など

私たちが「犬のストレス」と言った時には、4番目の心理的・社会的なものを意味することが多いでしょう。

具体的には雷や花火の音、他の人や犬、動物病院に行くことなどが挙げられますが、どんな犬でもこれらがストレスに感じるわけではありません。雷や花火の音がまったく平気な犬もいれば、他の人や犬に対してフレンドリーな犬も多くいます。

つまりは、ストレスの要因になり得るものは様々であり、その犬にとって何がストレスのになるのか、その感じ方は弱いのか強いのか、などは違うため、愛犬をよく観察して推察する必要があります。

良いストレスと悪いストレス

ストレスと言うと悪いイメージを抱きがちですが、ストレスには良いストレスと悪いストレスがあり、人間でも動物でも生きていくには多少のストレスは必要です。

犬の場合、散歩に行かない、何も刺激がない生活であると刺激(ストレス)に対する耐性が低くなり、ちょっとした刺激にも強いストレスを感じるようになってしまいますし、何も刺激がない生活自体がストレスとなってしまうことがあります。

ですから、散歩や運動が大事と言われる理由の一つはここにもあるのです。

犬が表す「ストレスサイン」

では、犬が何らかのストレスを感じた時にはどんな変化が表れるのでしょう?

それは表情や仕草、行動、体に出ることが多いのですが、特に表情や仕草、行動に変化が見られるものを「ストレスサイン」と呼んでいます。その他、体に健康上の変化が見られることもあります。

そのようなストレスによる犬の反応には、主に以下のようなものがあります。

【犬のストレス反応】

表情・仕草・行動

(ストレスサイン)

  • あくびをする

  • 鼻先を舐める

  • 動作がゆっくりになる

  • 震える

  • 体が固まる

  • 雨に濡れた時のように体をぷるぷる振る

  • 体を掻く

  • 落ち着きがなくなる

  • きょろきょろする

  • 周辺をうろうろ歩き回る

  • その場から逃げようとする

  • 呼吸が浅く速くなる(パンティング)

  • 困ったような表情になる    など

体の変化

  • 食欲の低下

  • 嘔吐

  • 下痢

  • 眼の充血

  • ふけが多くなる

  • 脱毛       など

 

しかし、これらのストレスサインは犬が日常的に示す仕草や行動と同じであるため、このような様子が見られたからといって単純に「ストレスを受けているんだ」と判断するのは禁物です。

痒いのはノミがいるせいかもしれません、あくびをするのは眠いのかもしれません。その時の状況や環境などを考慮して総合的にストレスなのかどうかを判断するようにしましょう。

ストレスが病的になる場合

なお、何らかのストレスを受けることで病的になってしまうケースもあります。

例えば、以下のようなもの。同じ行動を延々と繰り返すのが特徴的です。

【犬のストレスが病的になってしまった場合】

  • ・自分の尻尾を追い続ける

  • ・自分の体の一部を舐め続ける

  • ・飛んでいる虫を捕らえるかのように口をぱくぱくし続ける

  • ・自分の後ろを確認するかのように何度も振り返る

  • ・光や影を追い続ける               など

注意点としては、このような行動が見られる原因はストレスだけに限らないということです。遺伝や他の病気が関係している可能性もあります。

どちらにしても、このような様子が見られた時には専門的な診断と治療が必要になるでしょう。

ストレスサインにも“癖”がある?

人間でもストレスを感じた時に癖のように爪を噛んだり、貧乏ゆすりが出たりする人がいるように、犬にもその個体によって出やすいストレスサインがあるのではないかと考えられています。

たとえば、犬が何らかのストレスを感じた時に鼻先を舐める仕草はよくするもの、他のストレスサインはそれほど見られないというようなことがあれば、その犬にとってそれは“癖”のようになっているストレスサインなのかもしれません。

愛犬をよく観察して、そのような“癖”を見つけることができたら、ストレスがあるのかどうか、ストレスが強いのかなど判断する時に役に立つでしょう。

ストレスサインが出ない犬もいる?

ここまでストレスサインの話をしてきましたが、中にはストレスサインをなかなか出さない、または気づきにくい犬もいるようです。

人間っぽく言えば忍耐強く内に込めてしまうタイプなのかもしれませんが、こういう犬はストレスを抱え込んでしまいがちで、溜まったストレスを解消できずに問題が出る可能性がないとは言えないので、もし愛犬がそういうタイプならば気をつけるに越したことはないでしょう。

犬のストレスに対する対処

さて、ここからはストレスの解消・対処についての話に移りたいと思います。

愛犬のストレスに対して大げさに対応しない

愛犬が何らかのストレスを感じていることがわかったとして、飼い主さんが大げさに対応するのは避けましょう。

場合によっては飼い主さんのその態度自体が犬にとってストレスとなり、本来のストレスの元となっているものに対する反応がより強化されてしまうことがあります。

ストレスサイン自体がストレス解消のこともある

ストレスが一過性であった場合、人間でも頭を掻く、爪を噛むなどストレスサインを出すことで多少落ち着くことがあります。

犬でもストレスサインを出すという行為自体でストレスが解消されていることもあるので、犬がストレスサインを出したからと言って慌てずに、少し様子を見ることも必要です。

その後、犬が元の状態に戻り、落ち着いているようなら問題はないでしょう。

ストレス要因を極力遠ざける

様子を見て犬が落ち着かないようであれば、ストレスの要因となっているものを極力遠ざけるのが一般的な問題解消方法です。

たとえば、旅行先の宿に併設されたドッグランに連れて行ったものの愛犬にとってはストレスと思える時は、無理にそこで遊ばせずに近所を散歩するなど。

花火の音や光が怖い犬では、花火が上がる時間帯だけ愛犬を連れて遠くに避難する、音や光が聞こえづらく、また見えづらくなるようにテレビや音楽の音量を迷惑にならない程度に上げる、雨戸やカーテンで光を遮る、愛犬が好きなおやつやおもちゃで気を引いて犬にとって良いこととすり替える、などが考えられます。

ストレス要因に慣れるようトレーニングする

しかし、中にはトレーニングをすることでストレスの要因に慣れ、問題を解消できるケースもあるので、トライしてみる価値はあります。

車に乗ると酔ってしまい、ストレスになっている犬でもトレーニングすることで車に乗ることが大好きになるケースはたくさんあります。つまり、本来あったストレスが解消できているわけです。

また、来客がストレスになる犬ならば、人に慣らすトレーニングをする、来客に会わないように家の中に犬のための動線をつくるなどしてみてもいいでしょう。

散歩や運動、遊びを増やす

人間でも軽い運動はストレスを発散・解消させ、ストレスに強いメンタルをつくり、さらには睡眠サイクルを整える作用もあると言われています。

実際、ストレスによって生じた問題行動も散歩や運動をすることで問題が解消されるケースがあります。もし愛犬の散歩や運動が足りていないと思うようなら、ストレスにかかわる問題の解消対策として散歩や運動、遊びを増やしてみるのも一つの方法です。

社会化に励む

社会化が不十分な犬はストレス耐性が低く、不安傾向にあると言われます。

愛犬がまだ子犬であるなら、社会化に励むことでストレス耐性を高めることも可能でしょう。

行動治療の専門科を受診する

残念ながらストレスによって行動の問題が出ていたり、嘔吐や下痢など体の症状も頻繁に出たりしている場合は、問題がひどくならないうちに行動治療専門科の受診をおすすめします。

専門的なアプローチが問題の軽減、解消に力を貸してくれるはずです。

ストレスを上手にコントロール

以上、ストレスサインや対処法などについて見てきましたが、人間も犬も生きていく以上ストレスはつきものです。

それを溜め込まないよう、飼い主さんも愛犬も日常の生活の中でストレスを発散しつつ、少しでも上手にコントロールしながら生活したいものですね。

それには「犬のストレス」を理解し、愛犬をよく観察すること、愛犬にとって何がストレスになるのかを把握しておくことが大事です。そうすれば、たとえ愛犬がストレスサインを出したとしても適切に対応することができ、日常の生活はもちろん、おでかけや旅行も、より安心して楽しめることでしょう。

犬もの文筆家&ドッグライター 大塚良重

犬と人との関係を探求し続ける犬もの文筆家&ドッグライター。犬専門ライター歴30年。1頭の犬との出会いが人生を変える。愛犬への愛と感謝を胸に、文筆家&ライターへと転身した後、犬専門月刊誌や新聞での連載、取材記事、書籍、一般雑誌、web等で執筆。特に犬の介護、シニア犬、ペットロスはライフワークテーマで、「犬と人との関係」に最もアンテナが動く。信条は、"犬こそソウルメイト"。