犬の「分離不安」って何? 安心して旅行に行くための知識と対策

5.png

更新日: 2025年03月31日

飼い主さんから離れて独りぼっちになると吠え続ける、物を破壊する、粗相をするなど行動の問題が出る「分離不安」。旅行先では飼い主さんと離れるシチュエーションはあれこれ予想されます。愛犬に分離不安の兆候はありませんか? もしそうなら、安心して旅行に行くためにも分離不安を治すトレーニングをしておくといいでしょう。

犬の「分離不安」とは?

犬の「分離不安」とは、飼い主さんと離れることで強い不安や恐怖が生じ、行動に問題が出ることを言います。

専門的には不安障害(分離不安は不安障害の一つ)と呼ばれ、人間の子どもでも分離不安になることがあります。

犬の「分離不安」による問題と症状

では、分離不安ではどんな問題や症状が出るのでしょうか? それには主に以下のようなものがあります。

  • ・延々と鳴き続ける
    これは飼い主さんが出かけようとする時から始まることもあり、留守中は吠え続けたり、時には遠吠えをしたりと、とにかく飼い主さんに早く戻って来て欲しいと訴えているかのように鳴き続けます。

  • ・物や家具を破壊する
    飼い主さんが出て行った玄関のドアをガリガリと引っかく、果ては物や家具、柱などいろいろな対象物をかじったり、噛みちぎったりして破壊してしまいます。

  • ・排泄の粗相
    トイレトレーニングはできているにもかかわらず、飼い主さんと離れるとトイレ以外の場所に排泄をしてしまう場合もあります。

  • ・自分の体の一部を舐めたり、噛んだりし続ける
    上記の問題に比べると一見して静かですが、足先や脇腹など自分の体の一部を延々と舐め続け、それによって毛が薄くなったり、皮膚に炎症が起きたりすることもあります。

  • ・パンティング(荒く速い呼吸)、よだれが増える
    犬によっては呼吸が荒く速くなったり、多量のよだれを垂らしたりするようなこともあります。

犬の「分離不安」の原因

分離不安になると当の犬も飼い主さんも困ったことになってしまいますが、そうなる原因としては次のようなものが考えられます。

  • ・飼い主さんに対する依存度が高い
    社会化不足や犬の性格などにより、飼い主さんに対する依存度が高いと分離不安になりやすい傾向があります。

  • ・飼い主さんの甘やかし過ぎ
    いつも抱っこしている、しつけらしいものもしないなど、飼い主さんが犬を甘やかし過ぎていると犬の飼い主さんに対する依存度が高まってしまうことでしょう。

  • ・飼い主さんとのコミュニケーション不足
    逆に、犬とのコミュニケーションが不足している場合も欲求不満により犬の行動に影響が出ることがあります。

  • ・過去のトラウマや経験
    過去に独りぼっちの時に怖い経験をした、虐待を受けた、飼育放棄されたなどの経験があり、独りでいることに強い不安を感じている場合もあります。

  • ・生活環境の変化
    ある時期から分離不安が出た場合は、引っ越しした、赤ちゃんが産まれた、新しい仲間が増えたなど生活環境に変化があったことがきっかけになっていることも考えられます。

  • ・加齢
    高齢になり、体の自由がきかなくなってきた、視力や聴力を失ったなどの変化が犬にとっては不安となり、分離不安の兆候を示すようになることもあります。

  • ・脳や神経の病気
    特に分離不安の症状が重度の場合、脳や神経に障害が生じて分離不安の状態になっていることも考えられます。

おでかけや旅行先での分離不安

分離不安は自宅のみならず、おでかけや旅行先で症状が出ることもありますが、それには次のようなシチュエーションが考えられます。

  • ・飼い主さんが休憩やトイレ、買い物のために犬だけを車に残した時

  • ・宿のレストランに犬は同伴できず、犬を部屋に残した時

  • ・テーブルに犬を残し、飼い主さんが食事や飲み物を取りに行った時

  • ・宿に併設のペットホテルに犬を預けた時

  • ・フェリーや飛行機など、犬専用の部屋や貨物室に預けた時       など

これまで分離不安らしい兆候はなかった犬でも初めての旅行であったりすると不安になり、行動に変化が出ることもあるので愛犬の様子はよく観察するようにしましょう。

犬の「分離不安」の対処法

では、分離不安にはどう対処したらいいのでしょうか? 

おでかけや旅行先の場合

分離不安のある犬を旅行に連れて行くとした場合、重度の犬は難しいでしょうが、軽度であれば次のような対処が考えられます。

  • ・休憩やトイレで犬を待たせる時には家族や友だちなど誰かについていてもらう

  • ・食事の時に犬を部屋に置いていかなければならない宿は避ける

  • ・適度な運動はセロトニン濃度を高め、不安やうつ状態を軽減すると言われており、また運動したことで疲れて寝てしまうこともあるので、犬を待たせる必要がある時には、その前に運動をさせてみる
    (運動不足や精神的刺激の不足は分離不安に影響すると考えられる)

  • ・ラベンダーやカモミールなど不安を緩和し、リラックス作用があるとされる犬用アロマを使用してみる

  • ・犬を待たせる間は、その犬が一番好きなおもちゃや、おやつを仕込んだ知育玩具を置いておく

分離不安を治すトレーニングをする

しかし、前出の対処法は一時的なものであり、根本は解決できていません。できるなら分離不安を治すことができれば、それに越したことはないでしょう。

ここからはトレーニングについての話に移ります。

分離不安のある犬は飼い主さんが一緒にいる時でも次のような傾向があります。

  • ・いつも飼い主さんの後をついて回り、トイレやお風呂などにもついて来る

  • ・飼い主さんが出かける準備を始めるとそわそわと落ち着かなくなり、場合によっては吠え始める

  • ・飼い主さんが帰宅した時の興奮度が高い      など

このような分離不安の“影”が普段の生活の中に潜んでいるわけですから、そこから治す必要があります。

そのトレーニング方法とは…。

    1. 犬を構い過ぎない
      まずは飼い主さんの犬に対する接し方から改めねばなりません。

      終始犬を構っているようであればやめましょう。もちろん一緒に遊んだり、コミュニケーションを図ったりすることは大切ですが、必要以上に抱っこしたり、何かと構ったりすることは控えるようにします。

    2. 独りでいることに慣れさせる
      たとえば隣りの部屋に犬だけを残し、1~2分程度の短い時間が経ってから戻るという練習から始めてみます。

      この時、「独りでも大丈夫だよね? おとなしくしていてねぇ」などと大げさな声はかけずに、飼い主さんも落ち着いた態度に徹しましょう。

      犬の興味が他にいくよう、大好きなおもちゃを一緒に置いておくと犬が落ち着きやすくなります。

      頃合いを見て部屋に戻り、犬がおとなしくしていたようなら十分に褒めてあげましょう。ただし、犬によっては大げさに褒めるとそのこと自体に興奮し、吠えてしまうようなこともあるので、褒め方を加減してください。

      このような練習を徐々に時間を長くして繰り返していきます。

      もし、独りにして騒いでしまうようなら、その一段階前(静かに待てていた時間)に戻り、再トライしてみてください。

    3. 留守番の練習をする

      部屋で静かにしていられるようになったら、次は留守番の練習です。
      次のA,Bのステップで、段階を踏みながら練習をしていきましょう

      A:
      犬は飼い主さんが出かける時のルーティンを覚えてしまっているのかもしれません。

      その場合、ルーティンを崩す意味で、車のキーを持っても出かけずにポケットに持ち歩く、お化粧をしても出かけずに家で過ごすなどしてみましょう。

      B:
      それに慣れてきたら実際に留守番をさせてみますが、最初は数分程度のごく短い時間から始め、徐々に時間を長くしていきます。

      留守番をさせる間は犬が好むおもちゃや、おやつを隠した知育玩具などを置いておくと犬の気を少し紛らわせることができます。特に、おやつが出てくるまで多少時間がかかる知育玩具は犬が夢中になることがあるのでおすすめです。

      出かける時には、「寂しくないかな? いいコにしていてね? すぐ帰って来るから」などと出かけることを強調するような態度は控えます。できるだけ静かに何事もないような素振りで出かけるのがいいでしょう。

      帰宅したなら犬を抱き上げたいところですが、それをぐっと抑え、できるだけ平静を保ちます。犬が興奮して騒いでくるようなら落ち着くまで少し待ち、それから犬と接するようにします。

      ②の独りでいる練習と同様、もし犬が騒いでしまうようなら、一段階前(静かにしていられた時間)に戻り、そこから再トライしてみてください。

状況によっては薬物療法を取り入れる

上記のようなトレーニングをしても効果がない場合や分離不安が重度の場合、脳や神経に障害があると思われる場合など、またトレーニングの補助として薬物療法が必要になることもあります。

この場合は専門的な指導および治療が求められるので、詳しくは動物病院でご相談ください。

犬との旅行は日々の生活の延長

犬の分離不安についてお伝えしましたが、分離不安は犬の状況と対処次第で軽減・解消することが不可能ではない行動問題です。

解放感に包まれる旅行は心身ともにリフレッシュでき、とても特別な時間。愛犬と一緒ならば、それはなおさらのことです。

しかし、特別ではあっても日々の生活の延長であることに変わりはありません。愛犬との旅行を願うのであれば、日頃から愛犬がストレスを発散できるよう配慮するとともに、適度な運動をし、そして独りでもいられるようトレーニングしておくことは後々の生活にとって大切となるでしょう。

それができればショッピングや旅行など犬との行動範囲も広がるはずです。

犬もの文筆家&ドッグライター 大塚良重

犬と人との関係を探求し続ける犬もの文筆家&ドッグライター。犬専門ライター歴30年。1頭の犬との出会いが人生を変える。愛犬への愛と感謝を胸に、文筆家&ライターへと転身した後、犬専門月刊誌や新聞での連載、取材記事、書籍、一般雑誌、web等で執筆。特に犬の介護、シニア犬、ペットロスはライフワークテーマで、「犬と人との関係」に最もアンテナが動く。信条は、"犬こそソウルメイト"。