「上毛かるた」で群馬を学ぼう。珍スポット「かるた館」に行ってみた【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

①メイン画像.jpg

更新日: 2024年03月28日

 群馬県の魅力をぐんま観光県民ライター(ぐん記者)がお伝えします!

 群馬県の郷土かるた「上毛かるた」。県内の名所や偉人、歴史などが44枚の札に詠まれており、県民なら「ほぼ暗唱できる」ほど浸透している。群馬が誇る独自の文化で、これほど親しまれている郷土かるたは全国でも珍しい。今回は、そんな上毛かるたをテーマにした情報発信拠点「かるた館」を訪ねた。

戦後間もなく誕生、70年以上も県民に愛される

 上毛かるたが誕生したのは、戦後間もない1947(昭和22)年。社会福祉活動を担う恩賜財団同胞援護会県支部の責任者だった故浦野匡彦(まさひこ)さん(長野原町出身)らが中心となり、子供に郷土愛をはぐくんでもらおうと、物資が少ない時代に苦労して制作した。

 絵札は発行時期によって変わり、1968年に現在の絵札に描き換えられた。館内には絵札変更前後のかるた(レプリカ)が展示され、印刷技術の発展で絵札がより写実的な表現になっていく過程を見ることができる。

昔の「上毛かるた」(レプリカ)は現在の絵札より鮮やかな色合い

 読み札は「ち(力あわせる二百万)」の数字が増減する以外は、すべて初版のまま。「ち」の札は発行年によって「百六十万」から「二百万」に変遷し、覚え方によって年齢が分かるという「群馬あるある」でもおなじみだ。

 県人口の減少に伴い、発行元の群馬県は2024年1月、30年ぶりに「ち」の読み札を「力あわせる百九十万」とした改訂版を販売して話題となった。

土産店から上毛かるたの“博物館”へ

 「かるた館」は東吾妻町の国道145号沿いにあり、駐車場に並び立つ大きな絵札がひときわ目立つ。施設内の壁一面の上毛かるたに圧倒されていると、館長の島津和実さんが笑顔で出迎えてくれた。「ようこそ、かるた館へ」。

「かるた館」の島津館長

 島津さんは東吾妻町出身で、自身も子供のころから上毛かるたに親しんできた。進学や結婚を機に県外に住んでいたが、子育てに良い環境を求めて地元にUターン。ある時、家族で上毛かるたの話をしていると、夫の邦明さんが「自分は県外出身だけど、こんなすごいかるたは群馬にしかないよ」と感動し「もっと多くの人に『上毛かるた』を知ってほしい」と思い立った。

駐車場にずらりと並ぶ絵札が目を引く(かるた館提供)

 邦明さんは自身が経営する都内の食品加工会社で、上毛かるたの土産づくりに乗り出し、東吾妻町内に直営の土産店を開設した。その後、島津さんが「ただの土産店ではなく、上毛かるたが学べる“博物館”のような施設にしたい」と札の展示などを充実させて、2022年11月3日に現在の「かるた館」としてオープンした。

人気の札は、やっぱり「つ(つる舞うかたちの群馬県)」

 館内の大きな絵札には解説板が添えられ、札の成り立ちやモチーフについて紹介している。入り口付近には、太田、高崎、伊勢崎、桐生、前橋の5市の札である「お」「か」「め」「き」「け」、その奥には上毛三山の赤城山、妙義山、榛名山を詠んだ「す」「も」「の」を配置。群馬県民ならピンとくる、いずれも上毛かるた競技時のやく札をまとめて展示している。

上毛かるたのやく札「お」「か」「め」「き」「け」を並べた展示

 特に人気が高いのは、県の形を詠んだ「つ(つる舞うかたちの群馬県)」。上毛かるたの競技ルールでは同点だった場合、「つ」を持っている方が勝つというルールがある。県民は「つ」の札への思い入れが強く、札の前で記念撮影する人も多いという。

 伊香保、水上、草津、四万を詠んだ札から「温泉王国」の魅力を知ったり、新島襄や内村鑑三ら偉人の札を見ることで当時の歴史に思いをはせたり。札をジャンルごとに分けて配置することで、見学者が地域の特色や時代背景を理解しやすいよう工夫している。

 

絵札が変わった理由は。意外な歴史に興味津々

 「絵札だけをさっと見て帰る人も多いが、札は1枚1枚に意味があるので、ぜひ解説板も読んでほしい」と島津館長。団体客を受け入れる際は、館内をガイドしながら上毛かるたの歴史も説明している。

 例えば、読み札の「ら」と「い」だけ赤いのはなぜか。初版の発行時は連合国軍総司令部(GHQ)の検閲があり、そのため札に採用できなかった偉人もいた。制作者の浦野さんは、上州人の気質を表す「ら(雷と空風 義理人情)」と「い(伊香保温泉 日本の名湯)」とを赤く染めて強調することで、札に読めなかった上州人たちへの思いを表現したという。

 群馬県民で知らない人も多い、上毛かるたヒストリー。中でも驚かれるのが、「り(理想の電化に電源群馬)」の絵札にまつわる歴史だ。

「理想の電化に 電源群馬」の解説板では絵札の変遷について紹介している

 初版の絵札に描かれているのは佐久発電所(渋川市)。現在の絵札に描かれているのは、群馬と埼玉の両県にまたがる下久保ダムだ。「初版と現在の絵札で、別のモチーフが描かれることは珍しい。絵札の画家、小見辰男氏(故人)は、それだけ強く建設中の下久保ダムに心を動かされたのだろう。特に八ッ場ダム観光に来たダム好きの方に話すと、とても感心される」(島津館長)

全札コンプリートしたくなる「かるたキーホルダー」

 隣接する土産店では、上毛かるたのオリジナルグッズが豊富にそろう。特に人気なのがキーホルダーとストラップ(各385円)。両面が絵札と読み札になっていて、初版など昔の札バージョンもある。

 よく出るのは「つ」「ち」「え(縁起だるまの少林山)」。草津温泉の観光客が多い時は「く(草津よいとこ薬の温泉)」を求める人が多いことも。ただ、他の札もまんべんなく売れていて、中には全札コンプリートを目指す人もいる。

上毛かるたキーホルダー

 店内には通常版と英語版の上毛かるたや関連書籍のほか、絵札のパッケージのかりんとう(6個ギフト箱入り2160円)などを扱っている。新商品のパスタスナック(6袋入り648円)は焼きパスタの軽い食感と、オリーブオイルの風味と塩味がポイント。今後は、つるやだるまなど群馬らしい絵柄のパスタも販売する。

土産店で扱う上毛かるたグッズ

ゆかりの地を巡って、上毛かるたマスターに

 「群馬県民は、子供のころから地域の子供会や育成会で練習して、上毛かるたの大会に臨む。だから誰もが札を暗唱できるほど浸透してきた。ただ、子供なので読み札を『呪文』のように覚えているだけ。実は札ごとの意味を良く知らないのではないか」と島津館長。「大人になって札の意味を知ると、群馬の良さを学ぶことができる。ぜひ大人になった今こそ上毛かるたを見直してほしい」と呼びかける。

「上毛かるたを楽しむ場所をつくりたい」と語る島津館長

 「かるた館」では今後、上毛かるたを知らない人も楽しめるクイズや子供向けのゲームなども企画していく。「少子化や地域社会のつながりが薄くなり、県内でも上毛かるたに親しむ機会が減っていると聞く。上毛かるたは群馬が誇るすばらしい文化。次の世代の子供たちにもしっかりと伝え、受け継いでいってほしい」(島津館長)

 来館者の中には、上毛かるたの札巡りの旅を楽しむ人も。札に詠まれた名所やゆかりの地を訪れることで、より深く歴史を知ることができるという。「かるた館」に行った後は、群馬県発行の「ガイドマップ『上毛かるた』ゆかりの地 文化めぐり」(440円)を片手に県内を巡ってみてはいかが。かるたに込められた思いを紐解けば、県民もまだ知らない群馬の魅力に気づけるはずだ。

許諾第05‐01104号

インフォメーション

かるた館

住所: 群馬県吾妻郡東吾妻町岩下595
電話:0279-26-2030
営業時間:10:00~17:00
定休日:平日(月~金)※土日のみ営業
料金:入場無料

 

ぐん記者アイコン画像.jpg

いまここ

2018年、群馬に暮らす人の興味に応えるウェブサイト「いまここ」を開設。群馬の飲食店やイベント、歴史、アート、上毛かるたなど、県内の“気になる話題”を伝えている。ショート動画でも群馬の魅力を発信中。