2度の復活を遂げた「片原饅頭」 その味は?【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

片原饅頭

更新日: 2025年11月06日

「片原饅頭」をご存知でしょうか?

オリジナルは、今は既に閉店した前三百貨店の近くにあった志満屋本店が作っていた酒まんじゅうです。しかし、その志満屋本店が閉店し、前ばし万十屋として復活したものの再び閉店してしまいました。現在、二度目の復活を果たしているので、その「片原饅頭」の味を確かめてきました。

「片原饅頭」の復活

片原饅頭

オリジナルの「片原饅頭」を製造していた、創業1832年の志満屋は、発酵時の温度管理など製造継続が困難なことから1996年に閉店してしまいました。当時、私は群馬を離れ、母から「片原饅頭」が無くなったと聞いた時には、前橋市民に非常に親しまれていても無くなるのか・・・、もう食べることはできないのか・・・と寂しく思いました。

その閉店を惜しんだ元競輪選手である福島正幸さんが志満屋の元職人さんの助けを借りて、発酵の温度管理など試行錯誤の末、2010年に前ばし万十屋として「片原饅頭」を復活させました。「片原饅頭」の復活を聞いた時には嬉しかった反面、名前だけでは?と疑いもした。そこで買いに行き、食べてみました。すっきりとした甘さの餡やふっくらとした生地はまさしく「片原饅頭」、そのものでした。逆に、よくここまで再現できるものだな・・・と感心しました。その時の包装紙は、いつかブドウ農家になろうと考えていた私が、当時よく見ていたブドウ栽培の本のブックカバーとなり、今も自宅にあります。

<包装紙はブックカバーとなり、今でも本棚に並んでいる>

しかし、その前ばし万十屋も後継者が見つからなかったことから2020年に閉店してしまいました。私が「片原饅頭」の二度目の閉店を聞いた時には「あんなに人気がありそうだったのに、なぜ?」と思いました。当時、駆け出しのブドウ農家であり、ブドウの販路に乏しかった私からみれば、「片原饅頭」という最高のネームバリューは羨ましい限りでした。

やはり「捨てる神あれば拾う神あり」ということで「片原饅頭」の復活へ手を挙げたのが群馬県内で就職支援事業などをおこなっていた「ワークエントリー」でした。前橋市民と福島さんの思いを受け、「片原饅頭」の事業を承継したのでした。食品に関わったことのない富田勝之さんを含む4人が、福島さんの指導の下で「片原饅頭」の復活を目指しました。新店舗で使用する機械に合わせて製造条件を再構築しなければならないなど、「片原饅頭」の復活は容易ではなかったと富田さんは言います。

試行錯誤の末、福島さんが認める「片原饅頭」が作れるようになり、開店に先だった試験販売では広く宣伝しなかったにもかかわらず完売することができたそうです。

<2度目の復活の立役者の一人である富田勝之さん>

「片原饅頭」を持続可能に

片原饅頭

<生地は人の手で丁寧にこねる>

(写真提供:片原饅頭)

 

 

片原饅頭前橋本店では、次の世代に「片原饅頭」を伝えられるように、可能な限り数値化して誰でも「片原饅頭」を作れることを目指しているそうです。製造工程において温度管理が非常に難しい発酵工程は機械に任せることができるようになりましたが、生地をこねる作業や餡を生地で包む包餡の工程などは人の経験に頼っていて、日に400-500個の製造にとどまっているそうです。

 

私としては職人に頼らないのは良いのですが、製造量の増加に伴い特別感が低下するかもしれないので、増産は程々にしてもらいたいと、内心思ってしまいました(すみません)。

 

<「片原饅頭」製造に最適化された製造設備>

(写真提供:片原饅頭)

 

<人の手に頼っている作業の一つである包餡>

(写真提供:片原饅頭)

 

<成形した後に蒸し器へ>

(写真提供:片原饅頭)

 

使っている材料は地産地消の観点から群馬県内産にしたいと考えているそうですが、砂糖と小豆だけは県内産では賄えず、県外の物を使っているそうです。また、将来的には原材料の栽培も考えてみたいとのことでした。砂糖は地理的に難しいとは思いますが、群馬の北毛地区では有名な和菓子店が使う白小豆を栽培しているなど、もしかしたら良い材料が見つかるかもしれないので良い出会いがあることを願っています。

 

現在、「片原饅頭」は片原饅頭前橋本店とスズラン百貨店前橋店のみでの販売となっていますが、スズラン百貨店前橋店では箱売りのみ。県外からもお客が来る一方、来店できない方もいるとのことから冷凍した「片原饅頭」の通販も検討中とのことです。

固くなった「片原饅頭」の美味しい食べ方

炊飯器で蒸します

<炊飯器で蒸します>

 

私が、まだ子供だった頃、前橋の商店街へ親に連れられて買い物に行った時には「片原饅頭」を買って、よく家で食べたものです。これが買い物の楽しみの一つでした。家で食べきれずに余った場合には、炊飯器でご飯を炊いた際にご飯の上に乗せて温めていました。炊飯器で蒸すと生地が出来立てのような柔らかさとなり、経木である赤松の香りも立って、大変美味しいのです。

 

今では面倒くさくてレンチンばかりでしたが、ひと手間かけるだけの価値があります。私は饅頭の敷紙として使用している赤松を薄くスライスした経木や饅頭自体に、ご飯がくっ付くのが嫌だったので、なぜわざわざ炊飯器で・・・と思っていました。今になると、主食であるご飯とお菓子である饅頭が一緒になるのが許せなかったのだろうと考えています。

 

炊飯器を使った、この方法は我が家のオリジナルとまでは言いませんが、生活の知恵的な方法としか思っていませんでした。しかし、片原饅頭前橋本店が配布している「片原饅頭の美味しい召し上がり方」の中に「焼く」、「揚げる」と並び「蒸す」として、この方法の記載があり、これはこれで「片原饅頭」公認の食べ方だと理解しています。

 

<どうしてもご飯がくっ付きます>

 

<「片原饅頭の美味しい召し上がり方」には固くなった饅頭の食べ方も書いてある>

 

<「おでかけ群馬2017-18」(‎ニューズ・ライン)に妻が炊飯器を用いた温め方を紹介しています>

饅頭を想像させない店舗

饅頭作りは従来の方法に倣っていますが、店舗については前ばし万十屋とは別路線です。前ばし万十屋の店舗は店舗というよりも工場の直売所に近い感じでしたが、片原饅頭前橋本店の店舗は先代から一転、白を基調とした洗練されたオシャレな空間になっています。

 

知らなければ饅頭屋とは気づかず、通り過ぎてしまうと思うくらいです。実際に、私は気づかず、通り過ぎてしまいました。この路線変更は、昔の「片原饅頭」を知らない世代に対するアピールを狙ってのことだそうです。

 

<暖簾の「片原饅頭」の文字がなければ饅頭屋とは思えない店舗>

 

<白で統一された洗練された店内>

 

また、前ばし万十屋の包装は初代をイメージした包装紙を使っていましたが、片原饅頭前橋本店では包装を一新して、クラフト調の箱や白や青を基調とした紙袋などを用意しています。これは「片原饅頭」を永続的にしたいと考え、以前の「片原饅頭」を知らない世代の獲得を考えてのことだそうです。

 

<初代を踏襲した二代目の包装紙>

 

<洗練された包装は「片原饅頭」を知らない世代を意識>

 

・・・とは言うものの、以前の「片原饅頭」ファンである私は、限定品として旧デザインをモチーフにするなどした復刻版にも期待してしまいます。

 

二度の復活を遂げた「片原饅頭」の味は、子供の時に食べていた「片原饅頭」そのままでした。さらに、片原饅頭前橋本店では「片原饅頭」の今後を考えています。今後も「片原饅頭」が持続するように、安易にコストダウンを進めるのではなく、人の経験や勘に依存しない高い再現性を求めた機械化や群馬県産の材料の活用など、未来を見据えた取り組みも始めています。

 

復活が「二度あることは三度ある」とは言えない不確実な世の中です。「片原饅頭」が末長く続くように前橋に訪れた際には買い求め、炊飯器で蒸して楽しんでみてはいかがでしょうか?

 

<参考>

・おでかけ群馬2017-18ニューズ・ライン、2017318日、85ページ

インフォメーション

片原饅頭前橋本店

住所:群馬県前橋市城東町2-3-8広瀬川サンワパーキング1階東
電話:080-5073-5834
営業時間:10:00〜15:00(売切れ仕舞い)
定休日:日曜日・月曜日

https://katahara.jp

 

康田 靖

福田 靖

沼田市の観光ぶどう園「福田ぶどうマルシェ」にいます。「片原饅頭」の三度目の店舗の近くには広瀬川が流れています。私は前橋出身ですが、広瀬川には馴染みがありませんでした。初夏に広瀬川の遊歩道を歩くのは気持ち良いものです。