ブドウの燻製を知っていますか?「にっぽんの宝物」準グランプリの職人に聞く 【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

完熟前のブドウを収穫してしまうのはもったいない
<藤稔(左)とシャインマスカット(右)>
写真提供:沼田市役所
宮田優一さんが沼田市内でブドウの栽培を始めて30年が経ちます。彼のブドウ園では、ワイン用のブドウの栽培方法を生食用に応用したレインカット栽培で、藤稔、シャインマスカット、ヒムロットシードレス、バイオレットキング、マイハートなどを作っています。同じ沼田市内の他の農園では、8月下旬から9月下旬がブドウの販売期間なのに対して、宮田さんの農園は10月初旬から11月中旬です。これは、彼がブドウの本当の美味しさを味わってもらいたくて、ブドウの完熟を待っているためです。ぜひ、完熟ブドウの美味しさを味わってみてください。
<ブドウへの想いを語る宮田優一さん>
写真提供:沼田市役所
〜 ワインなど洋酒のつまみにピッタリ 〜 藤稔の燻製「藤の燻」
<完熟した藤稔>
写真提供:沼田市役所
ブドウは房の状態が良い時期が短く、その時期を逃すと粒が外れやすくなるなど商品価値が落ち、販売が難しくなる。そう悩んでいた宮田さんはブドウの加工を考えていたそうです。ブドウの加工品というと干しブドウが真っ先に頭に浮かびますが、普通の干しブドウではつまらない。もっと何か新しい、誰もやらないことは?と考えていた宮田さんは、知人から燻製機を入手したことからブドウの燻製化を考えたそうです。
<燻製作業中の宮田優一さん>
写真提供:沼田市役所
当初は、収穫したブドウをすぐに燻製にしていたために、蕎麦屋の営業と並行した燻製作業が大変だったと当時を振り返ります。細胞を膨張させることなく凍結できるCAS冷凍機を使うようになり、状態が良い時期のブドウを凍らせ、蕎麦屋の休業期間である1〜2月に燻製にするようになり、燻製作業の負担が格段に減ったそうです。収穫後すぐに燻製化したブドウも美味しかったが、凍結したブドウを燻製化すると、深い味わいとなりさらに美味い。宮田さんは、その理屈をブドウの実を凍結しても細胞壁が破壊されないので、ブドウの旨みが粒から漏出しないためであろうと考えています。ブドウの品種、チップの選択や燻煙時間などの条件検討に2年を要したそうです。検討が行き詰まった時に宮田さんを鼓舞したのは、燻製のブドウを口にした女の子からの「干しブドウより燻製の方が美味しい」という言葉であったと言います。試行錯誤の結果、沼田で非常に良い房ができる藤稔を、桜のチップと籾殻を使い3日間燻すという条件が固まりました。
<洋酒のつまみにピッタリ>
写真提供:沼田市役所
それを「藤の燻」と名付け、「藤の燻」はブドウを燻製にするという革新的なアイデアと、燻製の香ばしさやブドウの風味の絶妙なバランスが評価され、「にっぽんの宝物世界大会2024 in Singapore」の職人の知恵部門において準グランプリに輝きました。まさに、宮田さんの情熱が結実したのでした。
<世界大会での職人の知恵部門の準グランプリと東京大会での総合2位の証>
こだわりの二八蕎麦
<「そば処 山水」への入口>
宮田さんのもう一つの顔である「そば処 山水」はコンニャク芋の倉庫を改修した建物にあります。2025年6月に創業24年を迎えるそうですが、元々はブドウの副業として始めたとのことです。十割蕎麦の風味の良さは認めていますが、食べやすさから二八蕎麦を選んでいます。群馬県産の蕎麦粉と小麦粉を湧水で打った蕎麦には自家製のワサビが添えられていて、最初の一口目は自分ですりおろしたワサビをからめてその風味を味わってもらいたいと言います。一番人気の「山水そば」には薬味としてワサビの他に、ショウガやミョウガが添えられ、さらに群馬県産の野菜を主に使った天ぷらなどが味わえます。
蕎麦打ちの指導にも熱心で、群馬県立利根実業高校の生徒を指導し、全国高校生そば打ち選手権大会での優勝に導いた経験をもっています。申し込めば蕎麦打ちの体験もできます。
<コンニャク芋倉庫を活用した店内>
<オススメの山水そば>
写真提供:沼田市役所
手打ちの蕎麦に添えるのは自家製ワサビ
<収穫したワサビ>
写真提供:沼田市役所
玉原高原から端を発する発知川の川辺に仲間達と一緒にワサビ田を作り、ワサビを栽培しています。伊豆下田から譲られる苗をワサビ田に植えると1〜2年で収穫できるそうです。この下田からのワサビは辛味や風味だけでなく上品な甘味があり、蕎麦に合うと宮田さんは言います。しかし、残念なことに自家製のワサビは生産量に限りがあるので、終わった場合には下田産やチューブのワサビになるとのこと。ワサビの収穫は通年なので運次第な面がありますが、自分の運を信じて「そば処 山水」を訪れてみてください。
まだ夢の途中です
<柿の燻製「柿の燻」>
写真提供:沼田市役所
「藤の燻」に続いて柿の燻製である「柿の燻」も2024年に完成。もう一品作ってトリオで売ってみたい。シンガポールなど海外で販売して、食べた感想を聞いてみたい。また、ブドウや柿の燻製で使ったCAS冷凍機の細胞を破壊しない凍結機能に着目し、次は冷凍みかんのようなブドウが作れないだろうか?宮田さんはそう今後の展開を語ります。
76歳になり、体力の衰えは隠せない。それでも宮田さんの野望にはまだまだ終わりはないようです。
宮田さんからブドウの燻製の話を聞いた時には「えっ燻製?燻製の香りがブドウの風味を邪魔しないだろうか?」と疑ってしまいました。しかし、燻製を口に入れるとその香りとブドウの風味のバランスが絶妙で想像を超えていました。みなさまもぜひ食べてみてください。絶妙という言葉が実感できると思います。
インフォメーション
そば処 山水
住所:群馬県沼田市秋塚町113
電話:090-3256-2537
営業時間:11: 00~14:00
定休日:火曜、水曜、木曜、(祝日は営業)

福田 靖