「写真映えする建物」群馬にある有名建築家が手掛けた素敵な建物をご紹介します【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】
FUIGO (設計者:小島光晴建築設計事務所)
北関東有数の機械産業の街、群馬県太田市。工場が立ち並ぶエリアに、オアシスのように存在する癒しのコーヒースタンド「FUIGO(フイゴ)」は、スタイリッシュな店内で自家焙煎のスペシャリティコーヒーと東毛酪農のソフトクリーム、紺金コーラ(オリジナルのクラフトコーラ)をテイクアウトで気軽に楽しめるコーヒースタンドです。
地域の老若男女から愛され、太田市民の心の拠り所になっているFUIGOの代表久保田友典さんと建築家小島光晴先生に取材をしました。
久保田さんが小島先生に託したイメージは「神社の社務所」だったそうです。お守りを買うように、人が気軽に集まってくるような場所にしたいと。
小島先生は、現地を見た時に「街を照らすランタンのような建物を作りたい」と感じたそうです。地域の人々の「心を照らす灯り」のようなカフェになってほしい、とエイジング(経年変化)が魅力になる木や真鍮を使ったそうです。人とお店が一緒に成長していけるように、という願いを込めて。
「久保田さんとの対話の中で、お客様の日常に大切なひとときを提供したいという気持ちを感じ、日常でありハレでもあるようにつくりました。具体的に社務所とはお聞きしてなかったのですが結果的に神社の雰囲気と重なっていますね。面白いですね」
2018年4月に開店したFUIGOは、オーナーの久保田さんとスタッフが真心をこめて提供する一杯に、いつも変わらぬ愛があります。たくさんの思い出とともに愛されて2024年に6周年を迎えたFUIGOが、さらに時を重ねて味わいを増していくのが楽しみです。
FUIGO(フイゴ)※テイクアウト専門店
住所/群馬県太田市高林北町1920-4 (旧ROSETTA)
電話番号/0276-38-1207
営業時間/10:00~18:00
休業日/月曜日
事務所名/小島光晴建築設計事務所(一級建築士小島光晴)
住所/群馬県太田市薮塚町426-1-101
電話/0277 - 47 – 6769
WEB/mitsuharu-kojima.com
太田アートガーデン(設計者:慶應義塾大学ホルヘ・アルマザン研究室)
2019年、群馬県太田市にOPENした「太田アートガーデン」は事件でした。
大手広告代理店でクリエイティブディレクターを務めた中村政久氏は、群馬県太田市出身。東武伊勢崎線韮川駅前のご実家を改装し、アートギャラリーとして街に開きました。設計は慶應義塾大学ホルヘ・アルマザン研究室。
戦前からある建物や米蔵を生かしつつ、古い家具、廃材なども使用しているそうです。一連の取り組みは高く評価され、2019年太田市景観賞大賞、2022年日本建築家協会優秀建築選100作品のファイナリストに選出を受けました。
太田アートガーデンには、全国からお客様が訪れます。中村氏は、来訪者に対しアートや建物、手掛けた広告について丁寧に説明をしてくれます。建物内外のすべてに凛とした「品格」が漂うさまには感嘆の声がもれてきます。ここはクリエイションやアートを学べる「中村アートスクール」なのです。
2024年1月にはデザイナーのスズキリツキさんがオーガニックハーブティーやコーヒーの楽しめるカフェ「DAY by DAY DRINKS(デイバイデイドリンクス)」をOPENさせました。クリエイティブな空間で体に優しく心を癒す飲み物もアートプロジェクトの一環だそうです
店舗の入り口には韮川駅前を見守るようなベンチがあります。ここでドラマは生まれましたか? と中村氏に聞いてみました。
「(若いカップルは)見かけないですね(笑)。親子連れが来てくれますよ。いい光景です。若い方も気軽に来て欲しいです。アートを身近に感じていただきたいのです」
鈴木さんの入れてくれたハーブティーから立ち上る湯気の向こうに、中村氏の薫陶を受けた若い世代がたくさんのドラマを作っていく未来が見える気がしました。
太田アートガーデン(アートギャラリー)
住所:群馬県太田市台之郷町1091−1
電話番号:0276-55-2010
営業時間・定休日:カフェに準じる
「DAY by DAY DRINKS(デイバイデイドリンクス)」(ギャラリーカフェ)
住所:群馬県太田市台之郷町1091−1(太田アートガーデン内)
電話番号:090-9345-8146
営業時間:13:00~18:00頃まで
定休日:不定期(Instagramにて営業日確認)
Instagram:@daybyday_ota
慶應義塾大学ホルヘ・アルマザン研究室(設計者)
公式HP:https://www.almazan.sd.keio.ac.jp/
参考:写真に作品を掲載したアーティスト
・日本画家 木下めいこ https://www.meikokinoshita.com/
・彫刻家 中野滋 https://nakanoshigeru.com/
・画家 井上悦治 元女子美術大学デザイン・工芸学科教授
群馬県立ぐんま昆虫の森(設計者:安藤忠雄)
「ぐんま昆虫の森」は、昆虫とのふれあいをテーマにした体験型施設です。45haの広大な敷地に雑木林があり、田畑、小川などの里山が再現されています。
駐車場から斜面を登っていくと、突然視界が開けて巨大なドームが出現。怪獣映画のオープニングのような「昆虫観察館」こそ、有名建築家安藤忠雄氏の作品です。甲虫を連想させるガラス張りの温室は、ぐんま昆虫の森のシンボルです。
館内を散策すると、あちこちが安藤氏らしい「コンクリート打ちっぱなし」で仕上られていることに気づきます。
コンクリート面は壁紙や塗装で隠れる部分の為、きれいに仕上げることは難しいそうです。整然と並んだセパ穴(コンクリートを流しこむ際の型枠板を固定する器具の跡)は職人技術の結晶です。
1階から2階へ向かう階段を昇ると、光に満ちたホールが現れます。光と影のドラマティックな演出は安藤氏の名作「光の教会」を連想させます。
別館の「フォローアップ学習コーナー」も必見です。高いガラス天井から光が降り注ぐ大空間が圧巻です。安藤氏の資料もあります。
一年を通して楽しめる施設ですが、実は寒い季節がおすすめです。真冬でも昆虫観察館のふれあい温室は亜熱帯の植物園です。幻想的なドーム内では、オオゴマダラがひらひらと優雅に舞い踊り、一瞬で南国にプチトリップできます。
広い館内を歩き疲れたらカフェで「コンレチェ」を飲んでみてください。牛乳にフルーツを合わせたトロピカルドリンクです。名建築でいただく一杯は格別です。
群馬県立ぐんま昆虫の森
住所:群馬県桐生市新里町鶴ヶ谷460-1
電話番号:0277-74-6441
開園時間:4月〜10月/9:30〜16:30
11月〜3月/9:30〜16:00
入園は閉園時間の30分前まで、カフェのオーダーストップは閉園30分前まで
フォローアップ学習コーナー利用時間:4月~10月 10:00~16:00
11月~3月 10:00~15:30
休園日:
1.毎週月曜日(ただし、月曜日が祝日のときは火曜日)
2.年末年始(12/27〜1/5)
3.メンテナンスのための臨時休園
※春休み、 ゴールデンウィークおよび夏休み中は、定休日でも開園することがあります。開園カレンダーでご確認ください。
入園料金:一般個人410円、大学生・高校生200円、中学生以下無料
設計者:生態温室・安藤忠雄
フォローアップ学習コーナー
(左)昆虫観察館 (右)昆虫ふれあい温室
(左)オオゴマダラ (右)コンクリート壁のセパ穴
(左)カフェメニュー「コンレチェ」 (右)昆虫観察館2階ホール
みどり市旧花輪小学校記念館(設計者:大川勇)
旧花輪小学校は、明治6年開校。童謡「うさぎとかめ」の作詞家で「童謡の父」と呼ばれる石原和三郎先生も卒業生で校長を務めていました。
現在の校舎は、日本鋼管(現JFEホールディングス)の創立者である今泉嘉一郎先生の寄付により昭和6年に建築された木造校舎です。設計は埼玉県草加市出身の建築家、大川勇氏、大工棟梁は群馬県渋川市の小林子之吉氏が務めました。
フランス瓦や白い下見板張りの外壁はヨーロッパ風の洗練が感じられ、当時としては類を見ない立派な建築でした。
平成13年の閉校後は国登録有形文化財に登録され、平成15年より「旧花輪小学校記念館」となっています。長年使い込まれた木造校舎の廊下にたたずむと、昭和初期にタイムスリップして映画やドラマの世界に迷い込んだ気分になります。
私が取材した記念館の職員さんはこの学校の卒業生とのこと。山深い東町に石原和三郎と今泉嘉一郎という偉人が排出された背景をお聞きしました。
最盛期の足尾銅山は宇都宮市に次ぐ人口を誇り、東町はその宿場町として栄えていたそうです。「都会から文化が流入した影響があるのでは」ということでした。
また、「昔は子供も多く、みんなで和三郎先生の童謡を歌いました。ゆかりの校舎は卒業生の誇りです」と話してくれました。
東町では、世代を超えて石原和三郎先生と今泉嘉一郎先生への尊敬と感謝が語り継がれています。木造校舎より後に建設された鉄筋コンクリート造りの校舎はすでに解体されましたが、貴重な木造校舎は卒業生の愛校心の高さによって保存につながりました。
「うさぎとかめ」の童謡がこれほど似合う場所はありません。ここで音楽イベントが開催される際は、誰もが小学生に戻った笑顔で「もしもしかめよ」と歌いだすそうです。
みどり市旧花輪小学校記念館
住所:群馬県みどり市東町花輪191
電話番号: 0277-97-2721(みどり市東公民館)
開館時間:午前10時~午後4時(入館は午後3時30分まで)
休館日:月曜日(祝日と重なる場合は翌日)、12月28日~1月4日
入館料:一般200円(160円)、小中学生50円(30円)()内は20人以上の団体料金。
※入館券の購入場所については、旧花輪小学校記念館HPをご覧下さい。
(URL:https://www.city.midori.gunma.jp/hanawa/)
設計者: 大川勇 施工者(大工棟梁):小林子之吉
取材協力:みどり市教育委員会文化財課
みどり市立旧花輪小学校記念館 外観
(左)みどり市立旧花輪小学校記念館 階段 (右)みどり市立旧花輪小学校記念館 廊下
みどり市立旧花輪小学校記念館 教室
太田市中島知久平邸地域交流センター(設計者:伊藤藤一)
群馬県太田市(旧尾島町)出身の中島知久平氏は、第二次世界大戦終戦まで世界有数の航空機メーカーとして名を馳せた「中島飛行機」の創始者です。
昭和5年に故郷の両親の為に建設され、迎賓館としても使用された邸宅は、2024年現在、「太田市中島知久平邸地域交流センター」として一般公開されています。
設計監督に宮内省内匠寮出身の建築家伊藤藤一氏を招聘し、当時の最高峰の材料と技術を駆使して細部まで贅を尽くして建設されました。
敷地面積1万㎡超、純和風の唐破風屋根(城郭などに使用される上部に丸みを付けた重厚な様式)を乗せ、白御影石をふんだんに使用した豪奢な車寄せに圧倒されて玄関に入ると、中庭の日本庭園が絵巻物のように開けて目を奪われます。
洋風の応接室は、寄木のフローリング、大理石製の暖炉、玲光社のステンドグラス、シャンデリア、欧州製の家具等が配置されています。財力を誇示するハイカラ趣味にもかかわらず品格が保たれているのは、設計者の出自によるものでしょうか。
3000㎡の南庭に面した客室は49畳もの大広間となっており、利根川の河川敷に離発着する飛行機が眺められたそうです。
特筆すべきは、電気式暖炉や電気式の呼び鈴が使用されている点です。当時の最新設備であり、知久平氏の進取の気性が伺えます。
飛行機王のふるさとは、利根川沿いにあります。はるか東京湾まで広がる大きな空を見上げて育った少年は「国産の飛行機を創る」夢をかなえました。ものづくりへの誇りは後世に受け継がれ、いまも北関東きっての工業都市・おおたを支えています。
太田市中島知久平邸地域交流センター
住所:群馬県太田市押切町1417
電話番号: 0276-52-2235
開館時間:午前9時~午後5時(入場は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(月曜休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入館料:無料
駐車場 :40台(トイレあり)
設計者: 伊藤藤一(宮内庁内匠寮出身)
取材協力:太田市教育委員会文化財課
応接室
(左)廊下 (右)玲光社ステンドグラス
(左)客間 (右)廊下
(左)家紋の下り藤 (右)車寄せの桜御影石
齊藤あおい