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伊参スタジオ 懐かしい木造校舎で映画への熱を感じる【ぐんま観光県民ライター(ぐん記者)】

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更新日: 2024年04月08日

群馬県の魅力をぐんま観光県民ライター(ぐん記者)がお伝えします!

群馬県の北西部にある中之条町。
四万温泉をはじめとした温泉や、豊かな自然が魅力的な場所です。
また国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」の開催地で、アートの町としても知られています。
でもそれだけではありません。
中之条町には、映画スタジオがあるんです。
そこでは毎年映画祭が行われ、映画監督や俳優たち、そして映画を愛する人たちが集まります。
人口1万5000人ほどの小さな町の、山の中にある映画スタジオ「伊参(いさま)スタジオ」をご紹介します。

伊参スタジオってどんな場所?

こちらが、伊参スタジオの外観。

2階建ての木造校舎 奥が体育館

これは、1946年(昭和21年)に開校した伊参村立伊参中学校の校舎だった建物です。
(後に、中之条町立第四中学校となりました。)
1990年(平成2年)に閉校となり、校舎内に子ども達の声が響くことは無くなりました。

しかし、1994年(平成6年)に、こんな話が持ち上がります。
「この校舎を映画スタジオとして利用したい」

群馬県の人口が200万人に到達したことを記念して制作されることになった映画『眠る男』がきっかけとなり、教室はスタッフの宿泊場所として、体育館はスタジオとして使われることになりました。

そしてその後、数々のドラマや映画などの撮影拠点として使用されるようになります。
そんな伊参スタジオは現在「伊参スタジオ公園」として整備され、誰でも見学することができます。
また予約をすれば校舎内に宿泊もできます。

さらに校庭にはオートキャンプ場もあるので、ここを拠点に観光を楽しむこともできます。

伊参オートキャンプ場

名作にまつわる貴重な品々が並ぶ展示室

それでは、校舎の中を見ていきましょう!
この場所で毎年行われている「伊参スタジオ映画祭」実行委員長の岡安賢一さんに案内していただきます。

伊参スタジオの入り口に立つ岡安さん

看板に「入場料は笑顔です」と書かれています。つまり無料です。にっこり笑って中へ入ると、こんな玄関が出迎えてくれます。

玄関 学校の面影を残す靴箱

私は平成生まれで、木造校舎での学校生活を体験したことはないのですが、それでもなんだか懐かしい気持ちになります。

教室に「展示室」の看板

壁や黒板に撮影風景の写真などが貼られている

展示されている写真を見ると、有名な俳優さんたちの若かりし頃や、エキストラとして参加した地元の方々の姿が。
ドラマ『古畑任三郎』や、映画『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』など、多数の作品がここで撮影されました。
あの方もこの山の中まで来たのかあ、と感慨深くなります。

廊下には、全国各地から訪れた人たちの「あしあと」が。

どこから来たか、シールがびっしりと

映画の出演者のファンの人や、木造校舎の雰囲気に惹かれて訪れる人が多いそうです。
展示では大きく分けて3つの作品が紹介されています。このうちのどれか、もしくは全てを予習していくとより展示を楽しめます。

〇『眠る男』
まずは、この伊参スタジオが生まれるきっかけとなった『眠る男』。(1996/監督:小栗康平/出演:役所広司、安聖基、クリスティン・ハキム 他)
群馬県が制作し、モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞を受賞するなど高い評価を得ました。

『眠る男』の展示室

キャストの写真や、物語の紹介、ロケ地の地図などが展示されています。
そして復元されたセットも。

主人公である、動かず語らない「眠る男」の部屋

体育館にある、ホリゾントと呼ばれる背景画

この山の絵を背景に撮影が行われました。

〇『月とキャベツ』
続いては『月とキャベツ』。(1996/監督:篠原哲雄/出演:山崎まさよし、真田麻垂美、鶴見辰吾 他)
山崎まさよしさんの俳優デビュー作で、主題歌は『One more time,One more chance』です。

衣装や、撮影風景の写真

黒板に書かれた撮影時のメモ

黒板には、28年前に書かれた撮影時のメモがそのまま残っています。
「みなさん打ち上げで会いましょう 花火」の文字も。
花火は、山崎まさよしさんが演じた役名です。

シーンの表 撮影済みの部分が赤く塗られている

〇『影踏み』
また近年の作品では『影踏み』が紹介されています。(2019/監督:篠原哲雄/出演:山崎まさよし、尾野真千子、北村匠海 他)
主演の山崎さんと原作の横山秀夫さんが伊参スタジオ映画祭で出会い、意気投合したことから制作がスタートした映画です。

衣装や、劇中で山崎さんが乗った自転車

小道具や、ヒット祈願のだるま

「山の中の小さくて大きい映画祭」伊参スタジオ映画祭

そして伊参スタジオを語る上で大切なのが、毎年11月に開催される「伊参スタジオ映画祭」。
町内外のボランティアスタッフ約35人で運営されていて、今年で23回目となります。

2023年の集合写真

スタッフ手作りのカレーがお客さんに振る舞われ、ゲストの監督や俳優たちも一緒に食べるというアットホームな空気が特徴です。

この映画祭では、作品の上映だけでなく、若手監督の発掘を目的としたシナリオの公募も行っています。
200本~250本の応募から大賞に選ばれた作品には賞金が贈られ、中之条町を中心に撮影して映画化されます。そして映画祭でお披露目上映。
ここから多くの監督や脚本家が生まれています。

映画祭のキャッチコピーは「山の中の小さくて大きい映画祭」。
規模は小さいけれど、映画界で活躍する人材を輩出するなど、意義は大きい映画祭だ、という意味が込められています。

『月とキャベツ』を毎年フィルムで上映

実行委員長の岡安さんは、「場所の力がめちゃくちゃ強い」ことがこの映画祭の良さだと言います。

「映画を見ている間は映画の世界に没頭しますけど、それでも映画館で見るのと、体育館でパイプ椅子を並べて寒い中見るのって、やっぱり違うと思うんですよ。みんなで見ているっていう体験として強い。フィルムのカタカタカタという音を聞きながら見るのがすごくよかったという人がいて。そういう上映体験は他にはなかなか無いと思う。そして上映が終わって外に出ると山の中で、スタッフがつくったペットボトルにキャンドルを入れた灯を見ながら帰る、そういう印象って強いのではないでしょうか」

灯が並ぶ帰り道

まとめ

私が初めて伊参スタジオ映画祭に行ったのは、高校生の時でした。
舞台挨拶に登壇される桐谷美玲さん見たさに、父に連れて行ってもらいました。
そしてストーブがじりじりと燃える体育館で、『月とキャベツ』を見ました。

その後しばらく自分の中で「月キャベフィーバー」が起こり、劇中でヒロインが着ていた白いワンピースに憧れて似たものを探したり、『One more time,One more chance』を山崎まさよしさんのようにピアノで弾き語りしたいと練習したりしました。

物心つく前に制作された過去の映画にここまで心動かされたのは、家でサブスクでなんとなく見るのとは違う、映画祭での「体験」があったからだと思います。

実行委員長の岡安さんが言う通り、「場所の力」でしょう。

その場所の力は、この伊参スタジオで撮影をしてきた映画人たちや、この場所を管理し、映画祭を続けてきた中之条町の方々の想いによって作られてきたものなのだろうと思います。

映画への熱量が満ちた伊参スタジオ、是非訪れてみてください。

 

インフォーメーション

伊参スタジオ公園

住所:群馬県吾妻郡中之条町五反田3527−5

電話:0279-75-7220

営業時間:9:00~16:00(4月~12月は無休、1月~3月末は土曜・日曜・祝日)

定休日:1月1日~1月3日、1月~3月末の平日

料金:無料

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木暮あかり

フリーアナウンサー。1993年生まれ。群馬県前橋市・赤城山の頂上で育つ。国際基督教大学卒業。元FM GUNMAアナウンサー。映画、美術、本、音楽にまつわるスポットが好き。X:@akarikogure Instagram:@akarikogure