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「碓氷線」立ち入り禁止の鉄路を往く ー過去と未来を繋ぐ「廃線ウォーク」ー

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更新日: 2023年02月14日

横川(群馬県)と軽井沢(長野県)を繋ぐ碓氷峠。江戸時代には旧中山道の難所として知られていた峠越えも、現在は碓氷バイパス、高速道路、新幹線といった交通網が整い、往来も容易くなりました。

実は、そんな険しい峠を明治から平成にかけて100年以上もの間、鉄道が運行していたのをご存知でしょうか。

碓氷峠を越えることから「碓氷線」と呼ばれたその路線は「信越本線新線」の横川駅-軽井沢駅区間を繋ぐ鉄路で、1997年9月30日を最後に廃線となりました。

今回、鉄道遺産群として保存され、通常は立ち入ることのできないその廃線跡を、ガイドさんとともに歩くイベント「廃線ウォーク」に参加してきました。

 

 

初心者でも安心!「廃線ウォーク」コース紹介

8:45、下りルートの出発点である軽井沢駅前に参加者全員が集まり点呼を取ります。

途中の休憩場所に着く12:00くらいまでお手洗いが無いので、必ず出発駅で済ませておきましょう。

廃墟を歩くということでマニアの方の参加が多いのかなと思いきや、今回のツアーでは年配のご夫婦、お子さん連れの方、写真撮影が好きな方といった、世代も性別も様々な10名ほどの方々が集まりました。ガイドさんによると、SNSや口コミで広がったことをきっかけに色々な層に知られたことで、廃墟マニア、廃線好きの方々だけでなく、「非日常の体験をしたい」という若い女性のグループやハイキング好きな方々の参加も増えているそうです。

 

今回は、軽井沢側の11号トンネルを出発し横川へと標高的には下っていくルート(緑色・新線上り線、峠越えコース)を体験してきました。所要時間は約6時間です。

途中60分の休憩以外にも小休止を何度か挟みますので体力に自信のない方にも安心です。

コースも様々あり、ハイキング初心者、お子さま向け、しっかり歩きたい方、廃線・廃墟マニアも楽しめるものもあります。開催日によりコースは異なるので、安中市観光機構(あんとりっぷ)の廃線ウォークのホームページ等でスケジュールを確認してください。

 

 

トンネル探索の必須装備を確認

トンネルに入る前に廃線ウォークのスタッフさんと合流し、装備品の確認、準備体操を行ないます。特に重要なのが、真っ暗闇で足元の悪いトンネル内を進むために必要なヘルメットとライト。ご自身で用意できない時はその場でレンタル(有料)する事ができます。

レンタルしたヘルメット。

 

ヘッドライトは持参しました。無料で貸与される無線機からはイヤホン越しにガイドさんのリアルタイム音声が届きます。距離が開いてしまっても説明や道案内がきちんと聞こえてくるので、暗いトンネル内でも慌てることなく自分のペースで歩くことができます。

服装はヤマヒル対策に長ズボン、高地なのでそれなりに寒いため長袖の上着もあるとよいです。また、足場が悪いのでトレッキングシューズも必須だと感じました。

 

 

上り線踏破コース(軽井沢→横川)スタート!

今回ガイドをしてくださったのは、安中市観光機構の上原さん。

お祖父様が碓氷線で働かれていたそうで、想いも人一倍。「廃線ウォークを通じて、楽しみながら、碓氷線の歴史とそこで働いていた方々の姿にも興味を持ってもらいたい」と仰っていました。

碓氷線の急勾配を示す「66.7%c/パーミル(1km走る間に66.7m登る)」の標識(レプリカ)の解説を交えつつ、立ち入り禁止エリアの入口へと向かいます。

 

上り線踏破コース(軽井沢→横川)の始点である碓氷峠頂上付近(11号トンネル)から廃線ウォークがスタート。ここから、1,328mという、碓氷線の中でも最長のトンネルを含む、全11本のトンネルを踏破していくことになります。

 

冷んやりとした空気がトンネルの奥から流れてきて、ワクワクしつつも少しだけ緊張してきます。緩やかに下るトンネルの先から今にも列車が走ってきそうな、不思議な感覚を覚えました。

線路脇を歩いていくため、砂利や地下水などでかなり足を取られます。大きな砂利を踏んだ際の足への衝撃も緩和されるため、厚底のトレッキングシューズでの参加がおすすめです。

 

とはいえ、しばらく歩いてふと気がつくのが廃線にしては「とても歩きやすい」ということ。廃線と言えど当時の雰囲気を残すためというのはもちろん、参加者が安全に楽しく歩けるよう整備も日々行われているとのことです。

 

開通から1963年まで使用された旧線の跡。重厚な煉瓦造りはついつい写真に収めたくなる魅力、吸引力に溢れています。

ガイドの上原さんによると、廃線跡を活用した「ロケーション協力」も行なっているそうで、ミュージシャン、アーティスト方々などからの撮影許可の問い合わせもあるそうです。

 

こちらの信号機は当時のものを再現したもので、イベント開催時には発電機で通電し、実際に切り替えスイッチの操作も手動で行うことができます。通常、廃線で信号機が稼働することはありませんので、「廃線ウォーク」に参加しなければ味わえない体験です。

 

廃線後に手付かずとなった碓氷線では鉄道備品の盗難が後をたたなかったそうです。

こちらの信号機もオリジナルのものは盗まれてしまったのですが、イベントに参加した鉄道ファンの方のご好意で、別路線で使われていた信号機を廃線ウォークのために寄贈してくださったのだそうです。

 

 

廃線ウォークでしか味わえない「峠の釜めし」

上り3号トンネルを抜けると碓氷峠区間で唯一の平坦な場所「旧熊ノ平駅」に到着。ここで皆さんお待ちかねのランチタイム(12:00〜12:50)となりました。

 

さて、碓氷線のことはあまり知らずとも「峠の釜めし」は知っているという方も多いのではないでしょうか。

今ではターミナル駅の構内や高速道路のサービスエリアなどでよく見かけますが、横川駅前に現在も店舗がある「おぎのや」さんが元祖。創業からなんと135年以上にもなる老舗です。

 

ここでは、廃線ウォークの参加者しか手に入らない限定イラストの入った釜めしがいただけます。碓氷線が現役だった頃は横川駅に停車する4分ほどの間にホームで販売していたそうで、その当時の様子を描いた味のあるイラストがデザインされていました。これは、はやせ淳先生の描き下ろしで、春、秋の限定ラベルとしてシリーズ化しているそうです。

また、はやせ淳先生の人気シリーズ「新・駅弁ひとり旅 ~撮り鉄・菜々編~」が連載中(2021年5月時点)ですので、気になった方はぜひそちらもチェックしてみてください。

廃線に腰をかけ山の澄んだ空気と一緒にいただく釜めしは、旅情もプラスされいっそう美味しく感じました。

 

この旧熊ノ平駅からゴール地点までさらに2時間ほど歩きます。仮設のトイレもあるので忘れずに済ませておきましょう。

ちなみに、横川方面に見える山は童謡「紅葉」のもとになった場所だそうで、秋のシーズンには大変素晴らしい紅葉が観られるそうです。

 

 

峠越えのレールシステム「アプト式」を知る

次のトンネルへ向かう前に大きな石碑が目に入りました。

碓氷線の歴史を知るために重要な「アプト式開通の記念碑」です。

横川〜軽井沢間は11.2kmほどの短い距離ですが、標高差は552.5mで66.7%c/パーミル(1km走る間に66.7m登る)の急勾配であったため特殊なレールシステムが必要となります。

そこで、ドイツのハルツ山鉄道で採用されていた「アプト式」という方式を導入しました。

これは、普通のレールにノコギリの歯のようなレール(ラックレール)を追加し、車両側につけた歯車(ピニオン)をそのレールに絡ませて坂を登り降りするというもの。ドイツ人の「カール・ローマン・アプト」が考案したものなので、アプト式といいます。現在では静岡県の大井川鐵道で現役の姿を見ることができます。

 

 

ショートフィルム「横川のまちに汽笛は鳴り止まない」

石碑を見学し、さらに立ち入り禁止エリア(上り2号トンネル)を進みます。ここで壁をスクリーンにしたショートフィルムを鑑賞するという面白い演出がありました。碓氷線104年の歴史を振り返りながら、そこで働く人々にスポットを当てた映像作品で、とても見応えがありました。

 

碓氷線は明治26(1893)年、横川(群馬県)—軽井沢(長野県)に開通。明治45(1912)年、碓氷線の両端にあたる丸山と矢ヶ崎の2カ所に変電所を設けることで、日本初の幹線電化区間となりました。

昭和38(1963)年7月15日に信越本線新線が開通したことを受け、同年9月30日に旧線のアプト式鉄道が廃止。昭和41(1966)年7月2日に旧線の一部を改修する形でもう1線が開通し複線となります。これにより峠越えの所要時間も40分から17分と大幅に短縮されました。

ですが、高速道路の整備などが進むにつれ碓氷線はその役割を終え、新幹線開通を機に惜しまれつつ平成9(1997)年9月30日に廃線となりました。

峠越えに立ち向かっていく当時の人々の姿、記憶、仕事、想い、廃線が決まった時の心情。それらがインタビューによってリアルに蘇ってきます。歴史を共につくりあげた人達の「生の声」に焦点を当てた力の入った作品でした。

 

上り2号トンネルを抜け、いよいよ最後のトンネルへと向かう途中、コースの中でも一際見晴らしの良い場所に出ます。

大自然がパノラマで広がる高架で、普段歩くことができないロケーションに皆さん立ち止まって記念写真を撮りあっていました。

 

中央に見える下り線(横川→軽井沢)からだと、国の重要文化財として有名な「碓氷第三橋梁(めがね橋)」がよく見えるそうです。残念ながら、こちらからはうっすらアーチが見える程度でした。

 

1号トンネルを抜け、ゴールまであと少し。ここからしばらく緑のトンネルが続きます。

 

長いようであっという間だった廃線ウォークもいよいよ終了。

数時間前に出会ったばかりの参加者の方々との別れに名残惜しさも感じました。

 

 

旅の疲れをリフレッシュ!「峠の湯」

15:00、ゴール地点の日帰り温泉施設「峠の湯」に到着。峠越えの達成感を胸にすぐに帰りの電車に向かうのも良いですが、ここはぜひ「峠の湯」でひと風呂浴びてリフレッシュしてから帰るのがおすすめです。ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉のぬるめのお湯がじんわり温めてくれるため、歩き疲れた身体にピッタリな優しい温泉でした。アルカリ泉質が肌をスベスベにしてくれるので入浴後もサッパリ感が持続します。「裏妙義山」を眺めながら露天風呂でゆっくりしましょう。

乗りたい電車の時間に合わせ安中市観光機構の方が横川駅まで車で送迎してくださいますので、お風呂に入られる際はガイドさんと相談の上、帰り時間を設定するとよいでしょう。

 

 

廃線ウォーク・オリジナルグッズはこちら!「安中市観光機構」

横川駅で押さえておきたい場所といえば安中市観光の拠点にもなる「安中市観光機構」。観光案内所でありながら、木の温もりたっぷりで居心地が良く、帰りの電車のことも忘れついつい長居してしまいました。廃線ウォークの体験プログラムの申込受付、手荷物預かり、お土産品販売を行なっています。廃線ウォーク関連のグッズ販売にも力を入れていて、横川所縁のアーティストとのコラボTシャツ、トートバックなどのお洒落なアイテムも多数並びます。ぜひ手にとってお気に入りの一品を探してみてください。

また、安中市観光機構のホームページ「あんとりっぷ」には、廃線ウォークをはじめ、周辺の観光情報、センスの光るフォトギャラリー、オンラインショップなどの様々なコンテンツが用意されています。横川にお越しになる際は要チェックです。

 

今回は「廃線ウォーク」の軽井沢を出発し横川へと下っていくルート(新線上り線・峠越えコース)をご紹介しました。普段味わうことのできない非日常な体験と、どこをとってもフォトジェニックな景観に感動すること間違いなしです。

時代を超えて今もなお愛され続けている碓氷線の魅力を、皆さんもぜひ体験してみてくださいね。

 

 

【インフォメーション】

安中市観光機構

〒379-0301 安中市松井田町横川441-6

TEL:027-329-6203

営業時間:9:00〜17:00(観光案内所売店は9:00〜16:45)

休館日:年末年始を除き年中無休

アクセス:JR信越本線横川駅から徒歩約3分

上信越自動車道松井田妙義ICから車で約8分

https://www.antrip.jp(あんとりっぷ)

※廃線ウォーク開催日は特設サイトよりご確認ください。

https://haisen-walk.com

 

碓氷峠の森公園交流館「峠の湯」

〒379-0307 群馬県安中市松井田町坂本1222

TEL:027-380-4000

営業時間:10:00〜21:00(入館は20:30まで)

入館料:大人(中学生以上)3時間 700円

小人(4歳以上、中学生未満)3時間 500円

幼児(4歳未満)無料

休館日:毎月 第2・第4火曜日(第2、第4火曜日が祝祭日の場合は開館し、翌日が休館日)

アクセス:JR信越本線横川駅からタクシーで約5分

上信越自動車道松井田妙義ICから約15分

https://www.usuitouge.com/tougenoyu/

 

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。お越しの際は事前にご確認いただくことをおすすめします。

 

 

※2023年1月時点の情報です。